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この光景が、夢だとしても構わない。
現実と非現実の、あいだの虚構の世界でもいい。
次第に温かく感じれるようになってきたこの水温は、お母さんの腕の中みたいに気持ちがいい…
ああ、あたしは幸せだ。
最期に、あの夏の景色がみれたよ。
お母さんの腕の中で、眠れそうだよ。
祐未、ユウキ。
リカ、笹岡…
そして愛海。
次に会う時は、どうか幸せでいて。
そして次に会う時もまた…
幸せでいて。
何かを掴むようなしぐさをした掌は、かすかな痙攣をおこして、そして…………
指先にきらりと輝く赤い爪は、力を失って、水の中に沈んだ。
薄れゆく意識の中、水の中でゆるやかに手を動かすと、まるで放物線のように線ができた。
しかしそれはすぐに消え、泡となった。
あたしはさいごにもう一度親指を動かして、放物線をつくった。
そして泡になる前に、そっと目を閉じた。
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