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「う……動くなよ! 動いたらう、撃つからな!」
男は、腰に提げた拳銃をとっさに構えると、震える声でそう言った。
少女の虚ろながらも人間とは思えぬその瞳を覗いた男は、えも知れぬ恐怖に駆られたのだろう
何故なら、少女のその茶色の瞳には、生気と言ったものが一切感じる事が出来ない
覗き込んだものの心を引き裂くかのような強い殺意が男に恐怖を植え付けたのだ。
忠告など無視し、男の方へとヒタヒタと不気味な足音を立てながら迫り来る少女
男は、汗で湿った銃のトリガーを渾身の力を込めて引いた。
バンッ
緊迫した中、響いた一つの銃声
男の銃口から煙は上がっていなかった。
撃ったはずの男の胸には、致命的と言える穴が空き、先に落ちた銃を追うかのように、その場に倒れた。
「ご……めん……なさい」
届くはずのない少女の哀しげな声
その両手には、既にトリガーの引かれた黒光りする銃が握られ、銃口から煙を上げていた。
騒ぎを聞きつけ別の男たちが数人駆けつけた。
「ど、どうした! おい! あ、アイツが例の実験台!?」
「な、なんだ! 少女じゃないか」
「いや、ヤバいぜ……見た目に騙されるな」
先の倒れた男に駆けよるもの
強がってはいるが、完全に臆しているもの
並々ならぬ殺意を感じとりつつも、慌てず少女と対峙するもの
新たに現れた三人の間に生暖かい死の風が吹いた。
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