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「やっぱりここにいたんだ」
屋上に出る扉を開け、青空が視界いっぱいに広がった世界の中心には、案の定、達也が寝ていた。
トイレに行って来ます、と達也が授業中に言ってから、いったいどれくらいの時間が経ったことか。いつになったら帰ってくるのだろうと、私も気になってしまい、トイレに行って来ます、と言って抜け出して来てしまったのだ。
それもこれも、全部達也に非がある。授業をサボってしまったのも、全て、達也という人間が根っこにある原因だ。
そう、私は何も悪くない。
巧(うま)い言葉を使うとしたら……そう、私は保護者みたいなもの。達也を見守る義務がある訳だ。
青空に浮かぶ、綿飴(わたあめ)みたいな雲は、屋上に敷き詰められたコンクリートタイルにその影を落とし、影からもその動きを読み取れると思うが、雲の移動は相当鈍い。
そっと、コンクリートの床に足音を響かせないように忍び寄って、達也の側まで来た。
スヤスヤと寝息を立てながら、幸せそうな顔で眠っている。こうやっていつも大人しければ、可愛いというのに。
しゃがんで、顔を覗き込む。気づかぬ内に、達也の顔に私の影が落ちてしまったが、幸運なことにも、達也は微動だにしなかった。私は、少しホッとした。
指でデコピンの準備をし、ゆっくりと達也の額に近付ける。そして、勢いをつけて中指は彼の額まっしぐらに放たれた。
ペチッという軽い音が空気に溶け込み、それとほぼ同じくして、達也の顔が歪(ゆが)む。目を強く閉じ、眉間に皺(しわ)を寄せたかと思うと、次の瞬間に、達也は徐々に瞳を開け始めた。
達也の瞳のレンズには、私の顔が写っていた。そんな綺麗すぎる瞳に、私は少し引き込まれそうになった。
「なんだ、灯里(あかり)かよ。脅かすなっての」
私を確認し、安眠を邪魔された為か、少し強めの口調で達也はそう言った。そして、再度眠りに着こうとしたのか、達也は目を閉じた。
「いいかげん起きなさいって」
言いながら、私は達也の頬を指でつつく。
明らかに迷惑そうな表情を顔に貼り付け、私のささやかな余興でもある頬をつつく行為に対し少しの抵抗を見せた。抵抗と言ってもそんな大それたものではなく、顔を隠しながら仰向けな状態から体勢を真横に変えただけというもの。
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