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「起きなさ、い、よ!」
真横に体をひねり、体勢をずらしたおかげで、無防備となった背中を、平手で思いっ切りしばく。
「いってーー!」
跳ね上がって身体を起こす達也に、私は大爆笑。
「何すんだよ!」
口を尖らせて怒鳴り散らし、鋭い目つきで私を見る。その間も、私は大爆笑という呪縛(じゅばく)に締(し)めつけられ、笑うばかり。
「お前の方こそ、いいかげんにしろっての」
半ば呆れた様子で、達也は怒鳴ることはせず、語尾の調子を下げて呟いた。そして、尚も笑う私を見て、達也も遂には苦笑いを浮かべた。
「何がそんなに楽しいんだか……さっぱり分かんねえわ」
「私も、さっぱり。だけど、何となく可笑しいのよ」
さすがの私も、既に大爆笑の呪縛は解かれ、今度は屈託のない無邪気な笑顔で対応する。達也も子供のような笑みを浮かべ、二人で暫く笑い合った。
さんさんと降り注ぐ太陽と、優しく吹き付ける微風(そよかぜ)は、共に私たちを包み込み、まるで護られているかのような感覚に陥った。
温かく、優しく。
両親のそれと同じくらいの安心感を感じる。
あ、そうか。
もしかすると、達也と一緒にいるっていうのも、理由の一つかもしれない。
そんな事、私は絶対口に出す事はしないけど。
暫(しばら)く無言のまま時が経ち、膨大な時間が流れた事に気が付かないでいた。そんな私の時間感覚を修正してくれたのは、不運にも、授業終了のチャイムの音だった。
「ああーー!」
時の経過など、とうに蚊帳の外にあった私は、思わず叫んでしまった。否、叫ばずにはいられなかった。
「うっせーな、静かにしろよ」
宥(なだ)めるように言えばいいものを、如何(いか)にも鬱陶(うっとう)しそうに達也が言うもんだから、私の感情が更に膨張する。
「何よ、呑気に! あんたのせいで私まで授業サボっちゃったじゃないの!」
「何だよ、サボる前提でここ来たんじゃなかったのかよ?」
確信を突く質問がとんできた。私は少し度肝を抜かれ、面食らった。
確かに最初はサボるつもりで出てきたけれど、やはり授業が終わってみると、後味の悪さが幾らか残ってしまう。後悔、という二文字が私の頭の中に溢れていた。
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