航跡1:出港

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 20XX年8月14日午前9時35分、東京、人々は今日もいつも通りの朝を迎え、いつも通りの1日だと信じていた・・・  広島県呉市、IHI造船所のそばにある海上自衛隊第4護衛隊群の停泊地で最新鋭イージス護衛艦「DDG-179いぶき」は羽を休めていた。巡洋艦に匹敵するその船体には「あたご」型を凌駕する128セルものVLSが搭載されている。 最新のベースライン8のイージスシステムを搭載、主砲は「こんごう」型、「たかなみ」型に搭載されているイタリアのOTOメララ社が開発した速射砲を独自に長砲身に改造、全部と後部に2基搭載し、対艦、対空両戦闘に優れた威力を発揮する。 今年の3月に就役したばかりで、塗り立てのペンキの臭いがまだ消えていない。艦内では左舷直員が船体の手入れや整備を黙々とこなしている。  艦長の阿部 真一等海佐はウイングに顔を出し、乗員達を見渡している。 そこへ呉地方総監部へ出頭していた副長兼砲雷長の島田 隆輔二等海佐が慌てた表情で帰って来た。彼は一気に艦橋のラッタルを駆け上がり阿部の所に来た。  「ハァ・・・ハァ・・・首都圏で地震です!!地震が発生しました!!」  その言葉に艦橋内で作業をしていた乗員が一斉に振り返った。  「気象庁はマグニチュード7.2を記録し、東京は極度の混乱状態にあります。これを期にテロの発生や弾道ミサイル攻撃の可能性があるため呉、舞鶴より「いぶき」「ちょうかい」「あたご」「きりしま」は準備出来次第出港、日本海上にて警戒せよと防衛省から通達がありました。」  阿部は数秒考えた後に命令を下した。  「直ちに帰還するよう上陸中の者に連絡を取れ。今この話しを聞いていた者は口外を禁ずる。艦内でもだ。直ちに出港準備、夕方には出る。」  「はっ!」  出港準備が始まり艦内が一気に騒がしくなる。平時はフル装備されていないミサイルの搭載も始まった。  乗員達はこれがただの訓練航海ではないことは理解できた。  1700時、艦の整備、点検、武装搭載、燃料補給、食糧補給、全てが完了し、一部の者を除いて乗員も帰って来た。  「出港用意!」  阿部の号令が飛び出港ラッパが鳴り響いた。副長が舫い放ての指示を出す。  「1、3番放せ」  前方2つの舫いが解かれた。艦首が岸壁からゆっくり離れて行く。  「前後部、曵策放せ」
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