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ーザザザザッ
「母上ーっ!」
緑が生い茂った小さな庭の中、幼い少女が自分の身長を軽く追い越す草を掻き分け走っていた。
ふと庭を見渡せば、そこは緑ばかりだがそんな事を気にさせないぐらい、綺麗に手入れがされている。
ーザザザザッ
「母上っ!どこですかーっ!」
「あら、風花(ふうか)?」
突然、目の前に人影が現れる。
当然、全力疾走をしていた少女はその人影に正面から思いっきりぶつかった。
「大丈夫?」
心配したような優しい女性特有の声が少女の上で囁かれる。
少女はガバッと顔を上げると、嬉しそうに微笑んだ。
「まったく…そんなに走り回って、まるで貴女は風みたいですね」
「かぜ?」
そう聞き返せば、女はふんわりと微笑み少女の頭を撫でる。
「そう…風花の名前と同じよ」
「聞きたい?」と尋ねれば、少女は首を縦に振った。
「私は風が好きなの。風花のお父上もそうだった…」
「風花の父上が?」
「そうよ。…ねぇ風花」
女は遠くを愛おしそうに眺め、少女に語りかける。
一秒、一秒を慈しむようにー…
『あなたは誰にも指図されず…誰にも愛されるような人になりなさい』
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