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そんな蟠(わだかま)りを胸に抱えたまま、荻花の無機質な目線を辿り一軒の家を見た。
――小さな家だ。
白い壁。恐らく、二階立て。小さな庭。車を止める駐車場らしき場所は見当たらない。
なんの変哲もない、ごくごく普通の民家である。
庭から玄関までは、それぞれ大きさも形も違う敷石が三つほど存在する程度の距離。
まだ中にまで入っていないのでこれは予測であるが、親子二人三人が暮らすにはこれくらいの敷地が在れば充分だろう。
此処からはあまり観察するモノは無いと断定すると視線のやり場に困り、意味もなく白いコサージュの女性で視軸を留めてしまう。
「入りますか」
荻花は鎹と視線が合うと、待っていたかのように口を開き問うてくる。
鎹は、その抑揚の無い事務的で機械的な質問に首を縦に振る以外の選択肢は思い当たらなかった。
「はい」
元より、そのためだけに来たようなものなのだから。
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