9月25日 木曜 曇り

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どれくらい時間が経過したのだろう… とても長い時が流れたような気がする。 でも実際には、五分も経っていないかもしれない。 緊張状態で時間の感覚が狂っている。 ただ、チェシャ猫を抱き締めている両腕が痛い。 チェシャ猫が必死に腕から抜け出そうと、爪を立ててるせいだ。 こんな痛い思いして、なにやってるんだろう… そう私が思った時に、突然少女が動いた。 『クスクスクス…』 ただ微笑んでいただけの少女が声を出して“笑った”。 ただそれだけなのに、ゾクリッと私の背筋に悪寒が走る。 (なにが“来る”!?) ただ笑って、そこにたたずんでいるだけの少女に異常に警戒し、身構える。 少女はゆっくりと足を動かした。 「ひっ…」 後退る私。けれど少女はこちらには来ず、笑ったまま、右を向いて、曲がり角の向こうへと、去っていった。 (居なくなった) そう思った瞬間に、身体の力がガクッと抜ける。 (助かった…) 安心して、フッと気が緩んだ。 それがいけなかった。 「アリス!」 「あっ!?」 身体の力が抜けて、両腕の力も抜けてしまった。 スルリと私の腕から抜け出して、でっぷりとした体型には似合わない俊敏さで、少女を追いかけるチェシャ猫。 「ま、待ってチェシャ猫!駄目!!」 必死に制止の言葉を叫ぶ私。 だがチェシャ猫はそんな私の言葉に振り向きもせず、あっとゆう間に、少女が去っていった曲がり角を同じように曲がって私の視界から消えた… こうして、私の日常に突然訪れた非現実は、また突然私のもとから去っていった…
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