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「んじゃ、気を付けて持ってけよ!」
「分かってます!」
白衣を纏った男から書類の束を任される。何故か気を付けるよう念を押された。俺から見れば遠まわしに言う皮肉にしか聞こえない。
男はヘラヘラと笑いながら更に付け足した。
「あぁ、それと。アンタ名前は? 新入社員だろ? ここで働くんだったら俺とも同僚だからな」
「何を言うかと思えば……。昨日聞いて無かったんですか? ほら、胸ポケットに名刺が入ってますから、どうぞ」
書類を持ったままその男に近付く。
男は胸ポケットから名刺を抜き取り、食い入るように見つめる。
「もう良いですか? 失礼します」
「おい兄ちゃん。あともう一つ」
「何ですか!」
「何でそんな急いでんの?」
「署長から急いで持ってこいって言われてるんです! 失礼します」
「おう、兄ちゃん。」
俺は兄ちゃんと呼ばれた事に違和感を覚えた。
(何故名前で呼ばないんだ?)
俺は一旦立ち止まり、男の方を向く。そして、疑問をぶつけてみた
「えーっと、名前じゃ呼ばないんですか?」
「おぅ、これさ……。何て読むんだ?」
意外な返答。今だったら本当に目を点に出来るだろう。仕方なく、答えてあげる事にした。
「あるくなきけん、です。失礼します」
多少力任せに扉を閉め、エントランスに出る。後ろにある扉の向こうからは爆笑が響いてきた。
「分かってるよ、俺の名前が変だって事ぐらい」
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