散歩日和

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 今日もすがすがしい朝を迎えた。日課の散歩にはうってつけの日和だ。俺の飼い主は口笛を吹きながら河原の土手を歩いている。俺も吹きたいがムリだ。  腕を大振りしてジョギングする老夫婦。イヤホンを耳にランニングするちょいメタボオヤジ。行き交う中には、当然俺たちのような散歩中のものもいる。  ほら、あそこにはポメラニアンを腕に抱えたおばさんがいる。しかし、あれは犬の運動じゃなくておばさんの筋トレだろう。それとそこのおじさん。レトリバーで同じことするのは止めよう。あんたもそいつも可哀想だ。  む、この匂い。香水とやらか。またあいつらに出くわしちまった。世間話に花を咲かせる三人の奥様と、その足下のチビ三匹衆。チワワとダックスフント、それにヨークシャーテリア。飽きもせずにふんふんと体を嗅ぎあってる。 「この子実は8才なのよー」  チワワの横の奥様。 「えー、ウソー! 全然見えない。もっと若いかと思ったわ!」  残る奥様二人のトーンが半オクターブ上がる。おいおい、15以上のじいさんと子犬の区別しかつかねえあんたらがなにを言う。3才の犬と6才の犬、見分けてないだろ。人間なら二十歳の青年と四十の中年の違いだぜ。  呆れながらも彼女たちのそばを通る。このまま何もなければいい。その考えは甘かった。やはりこの“2匹”からは逃れられなかっのだ。 「あら、おはようございます。今日もお散歩中にお会いしましたね」  チワワの奥様(飼い主)の先制。 「あら、しろぶちモンスター君。今日はなんのようかしら」  チワワの奥様(犬)の追撃。  俺は体躯も器もお前と違うんだ。そんな挑発に乗るかよ。  だが、俺の飼い主は情けねえ。男として。下心が見え見えだ。固くなりながら「あっ、はい、そうですね」など言いつつ、目の色が野性的な光を放ってる。俺にはわかる。でもやめときな。  チワワの奥様は三人の中でも一番若く、犬の俺にも漠然とだが美人とわかる器量の持ち主だ。バツイチじゃない子持ちだ。  俺の嗅覚が告げるところを、先日、庭先で井戸端会議する奥様方の情報が裏づけた。チワワ夫人は美人局(つつもたせ)か何かを謀ってるんじゃないか、と。  
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