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たわわな木の実みたいなチワワの奥様が、俺たちを見下ろして口を開く。
「この子たち、いつも仲がいいわねえ」
チワワが勝手にキャンキャン吠えてるだけだ。うるさい。
蚊帳の外の奥さん二人は二人で会話を始めてるし、彼女のそばの二匹はとうに座視を決め込む始末。
「いっそのことカップル結成! なんてのもありかも」
突然なにを言い出す、チワワ夫人。血迷ったか。セントバーナードとチワワの体格差を考えろ。そもそも相性が最悪だ。
「お、おもしろいですねー」
ここでダメ飼い主がおもねやがる。
「あたしはそんなのゴメンだよ! こんなデカブツとなんて!」
珍しくお前と気が合うな。こっちからも願い下げだよ。ウゥ、と低く唸ってみせる。
だがいかんせん、俺たちの叫びは愚かな人間どもには伝わらない。
「それでそれで! あたしたちも一緒に……っていうのはどうですか!」
「え、え?」
暴走する夫人。困惑するバカ。久しぶりに口が悪くなってきたな、俺。
もう見ていられないな。俺は全力でその場から駆け出し、ロープごと飼い主を引っ張っていった。
「うわ、バーナー! おい! ……あ、あの」
遠ざかりながら、なにかいいたげな飼い主。改めて安直なネーミングだと思うよ。俺の名前。
「あらら。元気なワンちゃんですね。お返事はまた明日ね」
しょぼくれて歩く飼い主を引きずり、俺は帰路に就く。その途中、旧知であるボクサーのマットに出くわした。
「おや、旦那。どうかしたんですかい」
顔はいかついが、話のわかるやつだ。
「いやな……。まぁ、長話はなんだ。飼い主の散歩の後にでも話そう」
「ははっ! 飼い主さんの方が受け身ですか! うまいこといいますな」
「じゃあ」とだけ交わして、俺たちは別れた。
今朝は苦々しい朝だった。
さて、マットに会うまでは何をしていようか。
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