第三土曜日の覇王

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 新米がゆっくりとアクセルを吹かす。パトカーが流れに乗り出した。 「神奈川県警からの依頼ってどういう意味ですかね?」 「奴らには奴らの思惑があるんだろ」 「思惑?」 「引退暴走さ」 「引退って、総長のですか」 「ああ、稀に巨大なチームの総長が引退する時、最後の暴走を警察組織が黙認することがあるんだ」 「そんなことが」 「奴らだって引退暴走で無駄な争いはしたくない。一般人に危害を加えなきゃ、交通の妨害レベルで済むからな」 「つまり神奈川県警がその条件に乗ったと?」 「ああ。だが、だとしたら、あのナイトオペラの総長はかなりの男だ。お前も話ぐらい訊いたことあるだろ? 数年前の関東最大チーム総長、引退暴走の逸話(いつわ)」 「もしかしてジュピターですか? もちろん噂には訊いたことありますよ」 「俺は現場であれを目の当たりにしてるんだよ。警官に成り立ての頃さ」  街は赤、青、オレンジ、様々なネオンで包まれている。それが流れる車窓から射し込み、二人の顔を仄かに照らす。
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