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クリス・クリングルはサンタクロースにそっくりだった。 これほどのそっくりさんは、どこの老人ホームにもいないだろう。 白いひげに赤い頬。 りっぱな胴まわり。 どこを見てもご本人としか思えない。 おまけに名前だが、 この〈クリス・クリングル〉はサンタクロースの別名ときいている。 それがたんなる偶然なのか、 それとも、 自分でかってにつけた芸名のようなものなのか、 クリスが暮らしているメイプルウッド老人ホームでは、 だれも知らない。 正確な年齢も不明である。 真っ白なひげを見れば、 七十五歳と言われてもうなずけるが、 愉快そうに笑うときの顔や、 早足で歩く姿は、 五十歳でも通るだろう。 目はいたずらっ子のようにきらきら輝き、 笑顔がまた、 底ぬけあたたかい。 そう、 クリスはサンタクロースに生き写し。 おまけに「わたしはサンタクロースです」 といつも言っていた。
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