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それともぼくの『常識』としていたものが間違いだったのだろうか。
小説でもマンガでもべったべたの恋愛映画でも見たことなかったけれどもしかすると世の女の子の憧れはタンゴとジルバを軽々とこなす男なのかも。
イケメン+優しい+成績優秀+スポーツマン+タンゴ&ジルバ
この条件が全てそろって初めてモテモテになるのか?
女の子に好かれるのは大変だなあ。
「前川くん」
ふいに名前呼ばれてびっくりした。
「前川くんてさ、普通の人に見せかけて考えてることはけっこうアレな感じなんだね。」
ニコニコ顔でそう言う彼女もタンゴとジルバにこだわりをみせてる点で十分にアレな感じだと思った。しかも他人の思考を読むし。
それにすっかり忘れていたけれどぼくはなけなしの勇気をはたいて虹川さんに告白したのにタンゴだのジルバだのぼくをアレな人と称されたりとでけっこうぼくは気分を害してしまった。
「ぼくは普通だよ」
窓を背に向け机の縁に座っている虹川さんの膝小僧を見つめながら不機嫌な声でぼくは言った。
虹川さんの膝小僧はとても白いのだけれど今は夕日の明るさしかない教室でオレンジ色に染まっていた。
虹川さんのはく紺色のハイソックスは左右で長さがそろっていなかった。右のほうがたるんでいるのだ。彼女は気づいているのだろうか。
「だいたい」
ぼくは深く息を吸った。
「ぼくの告白がいやだったならはっきり言えばいいのに」
思ってもいなかった言葉が息を吐くかわりに出てきていた。
「タンゴとか、ジルバとか、ごちゃごちゃ言わないでさ。断りたいならはっきり断ればいいじゃないか。」
ぼくの視界から膝小僧が消えた。
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