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「前川くんがすねた。」
ぼくの鼻すれすれに虹川さんのニコニコ顔があった。
「前川くんはからかいがいがあるから好きだよ」
さらりとそういいながら彼女は自分の鞄とぼくの鞄をつかんであたかもついでのように鞄をもってない方の手でぼくの手をつかんだ。
「いっしょに帰ろうお付き合いしよう」
さらりさらりとぼくの度肝を抜かすようなことを言いつつ虹川さんはずんずんと歩き始めた。
「いや、ぼくタンゴとジルバなんて踊れないんだけどいいの?」
驚きのあまりぼくはついつまらないことを聞いてしまう。
「タンゴとジルバはね、わたしの最近のお気に入りワードなんだよ」
またよくわからない返事が返ってくる。
「タンゴとジルバ、って面白い響きじゃない?」
そういいながら虹川さんはダンスのステップのようなジグザグな歩き方をした。
虹川さんに文字通り振り回されながらただ一つわかったことは、ぼくに可愛いけどとんでもなくおかしな彼女が出来たらしい、ということだけなのだった。
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