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『ヒッシ!おーい!ヒッシ!起きてるかぁ!?』
声変わりのしていない甲高い声が石造りの外廊下に響くことなく、パカッと開いた新聞受けの取り出し口に集約される。
『必死』というのはオレの幼少期のあだ名だ。
将棋が強く、必ず相手を詰みに追い込んでいたからでも、『人間は必ず死ぬ』という普遍的な摂理を時折ウツロに嘆いていたからでもない。
ドッヂボールに精も魂も注ぐドッヂ弾平のようなサマを見た近所の友達が単純にそう名付けた…。
いや、単純だったら弾平か。
――『ホラ、ハンモ、起きなさい。シュー君が来たわよ。ごめんね、シュー君、ちょっと待っててね。』
『うん。おばさん、平気だよ。』
『ねぇ?シュー君、…私はまだおばさんじゃないでしょう?』
33歳、おばさんという言葉に敏感な往生際の悪い母親の声が、朝に鈍感なボクの中耳にやっと届き、友達が家に迎えに来たというのにまだ眠気と格闘しているこちらも往生際の悪きボクの1日が、大きなアクビで始まった。
『もう!ちゃんと目覚ましかけたの?だいたいが昨日の夜だって……』
またぞろに始まった小言に後押しされ、洗面もそぞろに玄関を飛び出した。
『おはよ。待たせてゴメン。』
シューは、昨夜マグロつまみ食いという重罪によって外に閉め出された飼い猫ぴょん太にチョッカイをだしていた。
しゃがんだ短パンから覗く白いブリーフにオレの眠気が少し吹き飛ばされる。
『この猫元気がねぇぞ。体調悪いのか?』
元気が無い理由は明確だった。
閉め出されて落ち込んでいたから、なんて可愛いげのある人間臭いものではなく、猫というのは夜型だから、そこなんだ。
セミすら起きていないこの時間、夜型のイキモノは7歳のボクを含めみんな眠い。
『よし、行こうか。』
立ち上がった勢いを屈伸運動に繋げたシューが言った。
『ちょっと待って、ションベン!』
自宅から10メートルも離れていないのに、やたらと黄色いオシッコを電柱に引っ掛ける。
家に戻るのは母親の顔がチラついて億劫だったし、何よりココはボクの縄張りだ。
誰にも文句は言わせない。と、家から母親が出て来ないことを朝からまず祈った。
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