中盤ノ伍

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「勘違いすんなよ?俺が言ってる覚悟っていうのは、命を奪っても平気でいることじゃない。奪った命を受け止めて尚、戦い続ける覚悟だ」 その言葉に、学生たちは顔を上げた。 「お前らもそのうち騎士になんだろ。そうなったら嫌でも人間と戦うことになる。どんな名君にでも、反対派はいるもんだからな」 チトセはモクをくわえながら、意味深な目をグラムの反乱者たちに向けた。刺さる視線に、クーデター真っ最中のユリウスたちは苦笑を禁じ得ない。 「命懸けで目的を果たそうとする奴らには、こっちも命を懸ける必要がある。そういう奴らは、命を引き剥がさなきゃ止められない時がある。それでもお前らは信じることのために戦い続けなきゃならない」 紫煙を燻らせながら、チトセは深紅の双眸を見習い騎士たちに向ける。命を奪われることも覚悟して、命を奪いに行かなければならない時がある、と。 「罪悪感に押しつぶされて動けなくなるようなら、戦場じゃ足でまといだ。わかるか?こいつらが――俺が行くのはそういう場所なんだよ」 チトセは意識して言い直した。他人事ではなく、これから自分が向かうのは戦場のひとつであると。 「お前らにそれなりの覚悟があるのは知ってる。そいつは大したもんだ。けどまだ足りない」 彼らの覚悟を「ある程度」と評した理由がここにあった。リズもファラーも、魔物や悪魔、人間と戦い倒す覚悟はしているだろう。 しかし、人の命を奪う覚悟はまだない。 それ故に、深紅の使い魔はリズの望みを却下した。 言い返すこともできない二人の少女。俯き、肩を落としながらも、自ら想像したことに恐怖を覚えて自分を抱く姿は、見ていて痛々しくすらある。 悔しさを感じるリズとファラーは、強く歯を噛んでいた。していたつもりの覚悟は足りず、同行が許されない。未来の騎士としても未熟すぎる自分に、怒りすら湧く。 だからか、次の青年の言葉は意外だった。 「誤解するなよ。お前らが悪いわけでも弱いわけでもない。むしろその年でそこまで覚悟している方が珍しい。成人したっつってもまだ十五、学生だ。ユリウスじゃねえけど、若すぎる」 「でも…あんたも…セツナも…」 もうその頃には、覚悟ができてたんでしょう。そう言いたかったことを悟り、チトセははっきりと告げた。 「比べるな、馬鹿。俺たちが異常なんだ」 そう、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
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