中盤ノ弐

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―――――――― 「セァ!」 裂帛の気合いと共に風を纏った刃が振り下ろされる。それは灰色の剛毛とその下の皮膚を切り裂き、ベスは紫色の体液を流した。 ――ゴアァ! 反撃とばかりに腕を振るうが、ラリーは素早く躱し距離を取った。 「どうだこの野郎!少しは疲れた――!?」 セリフの途中だったが、悪魔が口を開けて自分の方に向いたのを見て、ラリーはその場から大きく横に飛びのいた。 数瞬後、彼がいた一帯を白い冷気が吹き抜けた。 「ちっきしょー!それずりいんだよ!」 悲鳴のような文句を言いつつ、彼は必死に避けた。 「ったく…こんだけ斬ってもまだ元気なのかよ」 愚痴を零す人間を睨む悪魔。その体には十を越える切り傷が刻まれ、紫の血に染まっている。腕、胴体、足と、致命傷には至らないものの無視出来る程浅くはない――はずなのだが。 「見込みが甘かったなぁ」 そう漏らすラリーは、傷こそ負ってないものの大きく肩で息をしている。疲労が限界に迫っていることは明白だった。 「フリでもいいから疲れろよ」 思わずこぼれた弱音だった。 だが悪魔は聞く耳持たず、再度冷凍の息を吐く。 広範囲に渡り氷結させるこの息吹が、ラリーにとって最大の問題だった。一度吐かれれば、大きく距離を取らないと余波にすらやられてしまう。明確な見切りも出来ないから余計に大きく躱してしまう。その間にベスも体勢を立て直すのだ。 次いで予想外のタフさと魔法が使えないという点だ。タフさで言えば、これまで闘ってきた生物の中でも群を抜き、魔法は使えば闘い易かったかもしれないが、その分魔力の消費も多くなる。魔力切れは死に等しい。 これら負の要素が、確実にラリーの精神を摩耗させていた。 「かと言ってここで諦めるのもゴメンだ」 息を整え、氷の悪魔と睨み合う。ベスは浅く呼吸を繰り返し、またしても口を大きく開けた。 ラリーは横に飛びのき、幹を使って三角跳びのように急襲する。擦れ違い様に斬撃を浴びせ、また一つ傷を負わせた。 そうして距離を取る人間に向かい、悪魔はまたもや息吹を吐いた。 これを余裕をもって躱しながら、ラリーは状況を分析していた。 (こいつ、息吹ばっか使いだしたな) よく見れば呼吸も浅く短い。氷の悪魔なのに吐く息が白い。 ――こいつ、バテてきたのか? ラリーは冷静さを意識しながら、注意深く観察した。
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