中盤ノ弐

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その後も凍てつく息を避けながら、ベスの観察を続ける。やはり攻撃が息吹一辺倒になり、息が上がっている。つまりは――。 「疲れてきてるって事だよな…」 ラリーは一人ごちた。目を鋭く細め、一分の隙も見逃さないよう注視する。 ――ちっとばかし動きも鈍ってるか? 時折鈍い反応を見せる悪魔に、人間が微かな勝機を見出だす。 ――ならいっちょキメてみっか。 意を決し、ラリーは体に風を纏った。さらには剣を包む風を暴風へと変え、次の攻撃のための力を込めていく。それは残りの魔力を大きく消費する賭けの一撃。 「いくぜデカブツ!」 弾けるようにラリーがベスに迫った。その速度は先程よりも疾く、まさに疾風となって悪魔を襲う。 ――ゴアァァ! 加速した人間に過剰に反応した悪魔は、動揺を隠せずに慌てた。 ラリーは瞬く間に足元に移動し、さらに回り込む。狙うは首。それを刎ね飛ばすつもりで背後へ回る。 ベスは目で追えても体がついていかない。振り向く動作は方向を捉えつつも遅い。 ――喰らえ! 声には出さず気合いだけを込め、ラリーは振り向きかけのベスに暴風剣を大きく振り抜いた。 風は巨大な刃となり、悪魔の首目掛けて飛来する。 断頭の風を目に捉え、今にも首と胴体が別れようかという――刹那、灰色の悪魔はニヤリと笑った。 ラリーは目を疑った。 ベスは急に動きが速くなった訳でもなく、間に合わず左腕を挙げて防御する。 風の刃は腕を真ん中から切断した――が、首を落とすには至らない。 ベスは笑みを浮かべたまま、苦痛に悲鳴を上げる前に口を開いた。 賭けの一撃に込めた力が大きかった。回避に遅れたラリーの眼前で、零下の闇が悪魔の口から放たれる。 「――っざけんな!!」 ラリーは剣を横に構え、残りの魔力を注ぎ込んで障壁を張った。 零下の白闇は直撃すれば氷像になり、例え防いでも冷気が体温を奪う。ラリーは唇を紫にして、薄れかけた意識で悔しさに歯噛みした。 ――やられた。 まさに疲れたフリだったのだ。恐らくはこちらの弱音を理解し、本当に演技をした。弱気からそれを勝機と考えてしまったラリーは、まんまとしてやられたのだ。 腕を切断されても笑みが続いたのは、それくらいの負傷は予測済みであり、覚悟の上だったのだ。 食いしばった歯から力が抜け、ラリーは小さく苦笑した。 「あーもう…負けたよちくしょう」 人間は負けを認めた。
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