中盤ノ弐

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―――――――― セリとキースは、それぞれ使い魔を召喚した。後で呼び出すのは危険が伴うと思われたからだ。 そうして二人は牛程もある三頭犬ガルディスとリオンを従え、来た道を引き返していた。 「ねーセリ、悪魔ってどんなの?」 獅子の顔を持つ炎の化身が、幼い声で尋ねた。 「えーと、何て言ってたっけ?確か…」 思い出そうとするセリを引き継ぎ、キースがその名を告げる。 「ベス。氷の悪魔ベスって、ラリーさんは言っていた」 ――その途端、幼きイフリートは急停止した。 他の者も何事かと足を止め、リオンを振り返る。 「どうしたのリオン?早くいかないとラリーさんが――」 「ベスと戦うの?」 不意に投げられた質問。その声は重く暗く、普段のリオンとは明らかに様子が異なる。 「ベスの事を知ってるの?」 「ボク達じゃ勝てないよ」 紡がれたのは答えではなく返事。その内容に少年少女は眉をひそめた。 幼くとも炎の化身とまで謳われるイフリート。その彼にそこまで言わせる程、ベスは危険だと言うのか。 「ベスは格が違いすぎる。ボク達の力量じゃ勝てないよ。兄ちゃんくらい強ければ、ボクだけでも大丈夫かもしれないけど」 兄ちゃん、というのは恐らくシンバの事だろう。あの『火剣』エドワードの使い魔にして熟練の戦士のようなイフリートだ。 確かにあれほどの実力があれば勝てるかもしれない。いやこの場合の問題は、あれほどの力がなければいけないという事か。 「それでも行くの?」 「行くわ」 リオンの確認に濃金の主が即答した。揺るがぬ強さを秘めた瞳に、堅い意志が宿っている。 「みんなで生き残るために、力を貸して」 見つめ合ったのは数秒。そして獅子の少年は、力強く頷いた。 「わかった」 そしてようやく戻ってきた途端だった。 「ラリーさん!」 叫んだ時には、先輩騎士は氷像と化していた。その顔には困ったような笑みが浮かび、今にも「バカヤロー」と苦言を漏らしそうだった。 だがもう何も語らない。ただ固まり、動く事もない。 眼前の光景を信じたくなくて、でも否定する事が出来なくて、様々な感情がごちゃまぜになった時、セリの中で何かが切れた。 「あああぁぁぁ!!」 咆哮のような叫びと共に魔力が溢れ、炎を成して燃え上がる。眼(まなこ)にも火が宿り、鋭く細められた。 「…許さないっ!」 彼女が葛藤から選んだ感情は、怒りだった。
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