中盤ノ弐

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コルセス学院第三学年。その上位四人の一人に数えられる少女の魔力が放たれる。それは熱を帯び波を成し、近寄る事を許そうとしない。 熱気を感じたのか、ベスはようやく気付いたかのように二人に顔を向け、ニヤリと笑うと次の獲物として定めた。切断された左腕は凍らせて止血しただけだというのに、新たな戦いに喜んでいるようにも見える。 氷の悪魔の対面には、燃える少女と――同様に燃え上がる人型の獅子がいた。 幼きイフリートは、赤褐色の体毛が炎のように揺らめき、その身に本当に火を纏っていた。その魔力量や熱量もさることながら、歯を剥き出しにして唸り声を上げる表情に恐ろしさを覚える。その様はいつもの無邪気なリオンとは大きく異なり、獣の獰猛性が前面に出ていた。 ――なんて魔力だ。 激変したリオンの様子に、そして彼らから放たれる圧力に、冷静さを保っていたキースが驚いた。 すぐ傍にいる少年と三頭犬は、仲間から発せられる魔力の余波を受ける。 ――すごい熱量と魔力量だ――けど。 キースの表情は険しい。 ――セリは怒りで魔力を制御しきれていない。それにリオンも釣られて攻撃的になっている。 一人と一匹の巻き上げる火がうねり、周囲の氷をみるみる熔かしていく。 彼らが睨み合う中、一歩引いた状態のキースは必死に頭を働かせた。 ――まずい。無策で挑んでどうにかできるとは思えない。何かないか。 しかし、戦闘開始には間に合わなかった。 「リオン!」 ――ガァ! 「まっ――!」 キースの制止も聞かず、掛け声を合図に悪魔に突っ込む一人と一匹。体も強化していたのか、その動きはこの日で一番速い。 ベスとの距離はそんなにない。火の玉のような勢いで迫るセリとリオンは、瞬く間に間合いを詰めていく。 しかし直もキースは脳を絞り何かないかと策を模索する。 この場において、彼が最も冷静だった。恐怖を受け止めているがために状況を適確に判断し、ベスの恐ろしさを認識しているが故にその思考は生き残る最善の方法を探していた。杖を握り、振る機会を探る。 そして、この場で我を失っているのがセリでありリオンだった。彼らの目には憎き氷の悪魔しか映っておらず、それを一掃せんと突き進む。 ――だがそんな彼らの火勢は、ベスにとって大した脅威にはならなかった。
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