中盤ノ弐

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二つの火の玉が間合いに入った瞬間、 ――ゴアァァ! 悪魔は極寒の吹雪を吐き出した。 ――そんな。 視界が真っ白になった一瞬、燃える少女は愕然とした。息吹はセリの予想よりも速く、勢いのままに突っ込む彼女に避ける術はない。 まずいと思っても体はすぐには止まらない。そして走馬灯すら許さずに急に真っ暗になった視界に、絶望を抱きながら彼女は強く目を閉じた。 いけとし生きるもの総てを凍らせる白闇は、まるで突風のように吹き抜けながら熔け始めていたものを再度凍らせた。 つかの間の静寂が訪れる。総ての生物が息を潜めているかのような静けさの中、息吹が過ぎた場所には氷の山が出来上がっていた。 ――寒い……え?寒い? 暗闇の中、氷水に浸かっているかのような感覚に体を抱きしめながら、セリは顔をあげて目を開いた。 視界は薄暗く、周りの状況はよくわからない。ただすぐ横に、寒さにうずくまったリオンがいた。 ――何?あたしは死んだの? 痛みも苦しみもない。ただ寒い。死後の世界は極寒なのかと考えていた――その時、 「――れ!」 背後から切羽詰まった声が聞こえた。 「早く戻れ!」 言葉を理解すると同時に肩を思いきり後ろへ引っ張られる。ぎょっとして振り向くと、必死の形相のキースがいた。 少年はそのまま引き倒すようにセリとリオンを下げる。直後彼女らがいた場所に岩のような拳が降ってきた。 「なっ!?」 ――何っ!? 仰天する少女の目に映ったのは、右拳を振り下ろしたベスと、それにより破壊された、椀を逆さにしたような丸い土壁だった。 ――何がどうなって――! 「君は何をやってるんだ!僕達は生き残るために戻って来たんじゃないのか!」 キースの叫びが脳に響いた。 そこまできて、彼女はようやく自分の置かれている状況を思い出した。 ――そうだった。あたしはそのためにここに来る事を決めたんだ。 怒りに我を失い、実力差を考えもせずに特攻した事が思い出される。そうして零下の闇に呑まれかけた所を、間一髪キースが土壁を造って助けてくれた事を理解した。 セリは一方向に目を向けた。そこには氷像となったラリーが立っている。次いで彼女は相方を見た。そこには泣きそうな表情の少年がいる。 ――キースが本気で怒ってる。 いや、顔に浮かんでいるのは怒りだけではない。怯えや焦りもありありと表れていた。
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