中盤ノ弐

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珍しい表情に思わず面食らっていると、少年がセリを振り回すように再度引っ張った。 ――んなっ!? 驚く濃金の少女を掠めるように、灰色の腕が振られた。ほんの一瞬遅れていれば彼女は吹き飛ばされていただろう。 「何を呆けてるんだ!そんな暇はないだろう!」 叫ぶキースはセリの手を引いて駆け出した。戻って来た道を再び引き返すように走る。 確かに今はそんな場合じゃないと、セリは気を引き締めてキースに尋ねた。 「ありがと。どうするの?」 「やっと冷静になってくれたみたいだね」 彼女の声からそれを感じ取ったキースは、走りながら説明する。 「僕たちがベスを倒すのは恐らく不可能だ。今は時間を稼ぎながら出来るだけラリーさんから離れさせる」 「なんで?」 「ラリーさんを助けるためさ」 ――なんですって? セリは耳を疑った。一度凍り付いた人間を元に戻すなんて、そんな事が可能とは思えない。そこで少年は希望的観測を述べた。 「君も覚えているだろう?二番隊の副隊長は医法師だ。もしかしたら助けられるかもしれない」 ラリーは体を物理的に破壊された訳ではなく、瞬間冷凍されたのだ。可能性はあるかもしれない。 それに、彼らの学院で勤務する不良医法師こと『医神』ルビアは、死人すら蘇らせるとすら言われているのだ。 ――確かに希望的観測に過ぎない。でもないよりはマシだ。 「じ、じゃあ…!」 もう一人の騎士も助けられるのではないか。そう言おうとした少女だが、キースは静かに首を振った。 「あの人はもう粉々だった」 その言葉に胸を貫かれる。しかし今は悲しむ隙に自分が凍らされるかもしれない。感情の波を唇を噛んで一時やり過ごし、少女は今すべき事に集中する。 「どうするの?」 「時間を稼ぐ。それぞれでベスを撹乱して、一人に集中させないようにするんだ。ガルディス、リオン、出来るかい?」 その問いに、ケルベロスとイフリートが頷いた。リオンも落ち着きを取り戻したようで、燃え盛るような炎ではなく、静かだが激しい火を纏っている。 「ガルディスとリオンは機動力を活かして時々攻撃するんだ。セリは僕のサポートをお願いするよ。魔法は多分体には効かないから、顔を狙って。効果がなくても目くらましになればいい。あいつの注意は僕が引く」 一息でそこまで指示をすると、彼らは一斉に振り返る。 「さあ、行くよ」
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