中盤ノ弐

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総てを凍らせる灰色の悪魔を見据え、二人と二頭は蜘蛛の子のように散った。各々が緊急回避を出来るだけの距離をあけてベスを囲む。 中でも一番近くて目立つ位置に立つのが、この中で最も回避力の劣ったキース・ルクフォラスだった。 「まずはこっちに来てもらうよ!」 言葉と同時に杖を振る。まるで指揮をするかのような始まりに合わせ、大地が盛り上がった。 土はベスと同じくらい大きな戦士を形造り、神兵を思わせる勇壮な衣装を纏った。 土兵が剣を抜く。その様は威圧的で、悪魔の視線を釘付けにする。 ――君の注意をこちらに向けてもらうよ。 彼の狙いはそこにあった。氷像となったラリーから引き離すため、少年はあえて姿を晒し目に着く魔法を行使する。 実はこれほどの大きさの像を、キースは今まで素早く動かしたことがない。思い付きのままに造り、ぶっつけ本番で挑戦しようとしている。正直な所魔力がどれくらい続くかもわからない。だが全員で生き残るために、最善を尽くすと決めた。 ――倒す事が目的じゃない。時間を稼いで、ラリーさんから引き離すのが第一だ。 自分に言い聞かせながら悪魔を見据え、 「みんな頼んだよ!」 そうして少年は、杖を振り土兵を戦いへ送った。 兵は大きく踏み出すと、大上段から岩盤のような巨大な剣を振り下ろした。 速度や鋭さはやはりたいしたことはない。だがその一撃はもはや落石に等しく、いかにベスとはいえ素手で防御するには重過ぎる。 ――ゴアァ! 悪魔が踏み込まれた分下がって落石を避けた。そして息を吸い込み吹雪を吐き出そうとした時、頭部目掛けて火球が飛来した。 ――ゴァ!? 突然の事に目が眩み、ベスは一瞬土兵を見失う。 「ヘヘーンだ!今のはさっきのお返しだ!」 声の方を見ると、幼いイフリートが小馬鹿にしたステップを踏んで挑発している。 そちらに踏み出だそうとした瞬間、今度は左右から大火球に顔を襲われた。 悪魔の叫びが爆音と煙に掻き消された。攻撃を仕掛けたセリとガルディスが慎重に様子を窺う。 「…効いたのかしら?」 だがそんな言葉を一笑に伏す声があった。 「何を言ってるんだい。そんな事――」 ――ゴアアアァァァ!! 「ある訳ないじゃないか」 悍ましい咆哮とキースの苦々しい言葉が重なった。
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