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黄色い目を大きく見開き、燃える怒りを表すかのような黒い息を吐き、寒気を起こす叫び声が大気を震わせている。
凍り付いた森で咆哮をあげるその姿は、まさに氷の悪魔に相応しい。
――鳥肌が治まらない。
セリは思わず自分の体を抱きしめた。その向かいではガルディスが尻尾を後ろ脚の間に入れて怯え、リオンも最大限の威嚇を見せている。
意識を保てる程度の殺気を初めて浴びた彼らは、本能的に恐怖に揺さぶられていた。
――格が違うというのはこういう事を言うのか。
ベスが仁王立ちしているだけで肌が粟立つ。叫びを聞くだけで逃げ出したくなる。姿を見ただけで嘔吐しそうだ。
逃げ出そうとする足を叱咤して踏ん張りながら、悪魔に対面するキースが表情を歪めた。
この展開を予想していた少年は、心構えが出来ていた分動揺は少ない。だが――。
「…蚊を潰すのにそこまで怒る事ないじゃないか」
重い息を吐く。
そう、あの悪魔にしてみれば僕たちなんて蚊に過ぎない。ちょこまか動き回って苛立たせているだけだ。
誰しもあるのではないか。顔の周りを飛び回る蚊に苛立ちが募り、思わず声を上げてしまうような経験が。今のベスはまさにそんな状態だ。
――ただ予想外なことに、怒りの沸点を軽く飛び越えてしまったようだが。
キースは静かに呼吸を繰り返し、杖を握り直した。
(蚊でも構わない。あとはどれだけ引き付けられるか…)
相手は手負いの怒れる悪魔だ。猛獣などよりも遥かに手強く、危険度は跳ね上がるだろう。
「ここからは少しの油断も出来ないよ!みんな気を引き締めるんだ!」
掛け声と同時に杖を振ると、それに合わせて土兵が動いた。顔を戻す悪魔に思い切り斬り掛かる――が、
――ゴアァ!!
灰色の拳が土兵を打ち抜いた。首から上が弾け、大きくよろめく。
この事態に全員が驚いた。
――速い。
怒ったベスの反応速度が、多少程度ではあるが先程よりも速くなっている。
舌打ちをしながらキースは土兵の体勢を立て直す。土兵はバランスもよくイメージしやすいから人の形をしていただけだから、大した支障はない。
それよりも問題は、奴の反応が速くなった事がどう戦況に影響するか。
二人と二頭は、それぞれの動きと回避可能距離を意識しながら悪魔に注視した。
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