中盤ノ弐

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――ゴアアアァァァ!! 慎重を心掛ける彼らの心境など知った事か、とでも言うような怒号を上げながら、ベスは目についた邪魔者から襲い始めた。 最初の標的は頭を失った土兵。キースも気付き兵を動かそうとするが、悪魔はその前に乱暴に腕を振り回す。 まるで駄々っ子のような攻撃だが威力は落石に等しく、土兵は攻撃する事も出来ずに粉砕された。 セリ達が灰色の背中に魔法を放つが、ベスはまるで気にしない。ただ目の前の土製の蚊を全力で破壊し、更には残骸に向かって口を開いた。 「やめてくれ…」 懇願のようなキースの言葉に見向きもせず、悪魔は二度と動くなと言わんばかりに冷気を吐く。 瓦礫と化した土兵はなす術もなく凍りつき、その様子は他の者を戦慄させた。 微塵の容赦もなく土兵を破壊したベスに、これまでとは比較にならない恐怖を覚える。 やられたのが土兵だったからよかったものの、もし自分が狙われたら果たして回避出来ていたか。 その慈悲も躊躇もない暴力を見たセリとキースは、全身に嫌な汗をかき金縛りにあったように動けなかった。 それはつまり、ベスへの恐怖に呑まれているという事。 ――まずい、逃げなきゃ。ここはもう引き際だ。 キースは瞬時に退却を選択した。だが体は動かず逃げる事が出来ない。 ――逃げなきゃ。逃げなきゃ!でないと…。 思考だけが空回りし、体はうんともすんとも言わない。焦燥が彼の心を侵食し始めた時、ベスの黄色い目が彼を捕らえた。 その、殺意のみを強烈に伝える双眸に、体中の毛穴が開いた。 ――コロサレル。 悪魔が体を向け、足を踏み出す。 矮小で脆弱な生き物が悪魔に刃向かった罪。その判決を降そうとベスが恐ろしい形相で少年を見据える。 ――動けない。 蛇に睨まれた蛙を体験したキースは、声を出す事も叶わなかった。 「リ、リオン!」 悪魔の背後、セリが震える声で使い魔を呼んだ。怯えていたリオンも反射的に従い、彼女の側にやって来る。 「リオン、全力でいくよ!」 「あい!」 自らを奮い立たせるように強く言い、二人で腕を突き出して魔力を練り上げる。 ――ちまちま攻撃しても意味がない。 彼らが作り上げた火球は人を飲み込む程大きく、一人と一頭の込めた大量の魔力で震えている。 「これ以上やらせない!」 気合いと共に、砲撃のような音を立てて豪火球が放たれた。
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