中盤ノ弐

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左腕を切断され手首から先がないにも関わらず、ベスは両手を次々と打ち下ろす。標的の前にある薄皮のような障壁が邪魔でしかなく、ムキになって腕を振り回した。 しかし、二人が大切なものを守ろうと造り上げた障壁は簡単には破れない。 ――だが、その岩石落としのような攻撃は確実に響いていた。 「くっ!何て威力…!」 「まずい…!そんなに…もたない…!」 セリとキースが顔を歪める。こんな物理攻撃を受けるのは初めてなのだろう、歯を食いしばって耐えている。その威力が障壁を伝わり、地面が揺れる。 彼らの背後では、幼いイフリートとケルベロスが困ったような表情を浮かべながらラリーを守護している。何かしたいけど何も出来ない状況に、二頭とも歯噛みしていた。 そんな時、落石のような打撃が一時止んだ。何事かと顔を上げた彼らが見たのは、体を反らせながら息を吸い込む悪魔だった。 ――息吹が来る。 全員が同時に察知した。寒波を防いでも冷気が急激に気温を下げ、体力が削られる。 「リオン!あたし達を壁ごと火で包んで!」 濃金の少女が叫んだ。リオンが条件反射のように両腕を素早く広げると、障壁の周りに炎が走りそのまま半球型に彼らを包み込んだ。 ――まるで火の結界だ。 キースがそう思った矢先、氷の悪魔は深い呼吸を止めた。憤怒を秘めた黄色い双眸で炎を纏った障壁を睨み、これでもかという勢いで極寒の息吹を吹き付けた。 それはまさに氷雪の嵐。息吹は大小の雹を含み、リオンの炎を抜けて障壁にぶち当たる。それどころか激しい強風が徐々に炎膜を引き剥がしていく。 息吹が止む頃、リオンの炎は総て引き剥がされていた。だがほんの数瞬ベスの冷気を遮ったおかげで、障壁内の気温はそれほど激変しなかった。 しかし、いかにリオンが炎の化身であっても、氷の悪魔相手には幼く、弱かった。彼は自分の無力さに悔し涙を浮かべるが、ベスは無慈悲にも攻撃を再開した。 「く…っ!」 二人の口から小さな悲鳴が漏れる。一撃毎に魔力を削り取られているようだった。 「…セリ…どれくらいもちそうだい…?」 「正直…あんまり長くないわ…」 訊く方も答える方も苦しそうだ。その間にも息吹が二人を襲い、精神と体力を奪っていく。魔力も消費し、壁に亀裂が入った。 ――もう駄目か。 歯を食いしばりながらもそんな考えが頭をよぎった。 ――その時、何かが高速で飛来し悪魔に直撃した。
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