中盤ノ弐

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一瞬の事で二人にはわからなかった。風を切るような音が微かに聞こえたと思ったら衝撃音があり、ベスが大きくよろめき遂には倒れた。 「な、何…?」 セリは思わず力が抜けてしまい、膝を着くと同時に障壁も消えた。とキースも同様に驚き壁が消える。 すぐ目の前には頭を振って意識をはっきりさせようとする悪魔がいるが、倒れた原因が見当たらない そんな時、後ろでバサリと音がした。反射的に振り返り、二人と二頭は凍ったラリーの肩に止まる大きな鷹の姿を認めた。 「ふむ、想像以上に硬いな。私の魔法があまり効かないか」 そう言った後、大鷹はラリーの頬を優しく啄むような仕草をして、どこか悲しげに漏らした。 「馬鹿者め。こんな相手に無茶をして」 人語を操る生物、ということは――。 「ラリーさんの使い魔?」 セリの口から出た言葉に大鷹が顔を向けた。猛禽の瞳が彼らを見据え、厳かに言葉を放つ。 「いかにも。先程は忙しくて紹介も出来なかったな。私はリュカ。この未熟者の使い魔だ。」 こんな時に暢気なものだが、ベスが何故突然倒れたか解った。リュカが何らかの魔法を使ったのだ。 そしてこの大鷹が帰って来たという事は隊長らへこの状況が伝えられたという事だ。もしかしたら救援が来てるかも知れない。 そんな思いから顔を巡らせるが、援軍と思しきものは影も形もない。 (いや、もしかしたらこちらに向かっている最中かもしれない!) キースの頭が回転を速める。突如陥ったこの状況は、決して悪いものではない。 (まだ希望は潰えてない。リュカもいるし、魔力の少なくなった僕達でももう少しもつかもしれない) そう思って大鷹に顔を向ける。だがリュカは動く気配を見せず、ラリーの頭をコンコンつついている。 「む?」 不意にキースの視線に気付いて顔を上げる。少年の目から気持ちを読み取り――衝撃的な事を告げた。 「我々がする事はもうない」 ――なっ! 一瞬聞き間違いかと思いたくなる言葉に、他の者が驚愕した。 ――何故? こんなシンプルな疑問に答えは出ず、一同は固まった。 その間にベスが体を起こし、唸り声を上げる。怒りが黒い煙となって口から吐き出された。絶望が具現化したような悪魔の姿に言葉もない。だが、リュカはただ冷静に呟いた。 「残念だったな。もう終わりだ」 ――もう総て凍り付け。 そんな勢いで息を吸い込むと、悪魔は動かない邪魔者達に吹雪を吐いた。
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