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――逃げられない。
セリとキースは同時に終わりを確信した。様々な感情が入り乱れたが、一瞬の後に訪れたのは諦めだった。
ベスが呼吸を止め、彼らを睨み付ける。
――あと奴の一息で終わる。
恐怖が迫るも避ける術がない。対抗出来る魔力もない。
そんな葛藤など関せず、悪魔が息吹を吹いた。
二人は思わず目を閉じた。
――だが、寒さなどいつまで経っても微塵も感じない。
いや、もしかしたら寒さなど感じる間もなく凍ってしまったのかも知れない。だとしても氷漬けになっても思考が出来るというのは一体――。
「ふう、どうやら間に合いましたね」
優しい声が安堵した調子で紡がれた。
――え?
幻聴かと思ったセリとキースは、恐る恐る目を開いて顔を上げる。
「二人共無事ですか?よく頑張りましたね」
そこには、左手で青く燃える壁を造りながら微笑むウルガイがいた。
――幻覚?
「ギリギリではないか、ウルガイ殿。少し焦ったぞ」
「すみません。リュカ殿が先を急がれた時はどうしようかと思いましたが、間に合ってよかったです」
苦笑を浮かべて鷹と会話する彼は、紛れも無くウルガイだ。絶え間なく続く悪魔の攻撃を、セリやキースがあれほど苦しめられたベスの攻撃を、余裕で防いでいる。
彼の茶色い瞳がラリーを捉え刹那悲しそうに細められが、すぐに元に戻った。
「それにしてもまさかベスがいるとは。状況は思わしくありませんね」
彼は若干表情を険しくして悪魔に向き合う。その背中はとても静かで、完璧に感情を制御しているようだった。
「ラリー、凍ったままでいいから聞きなさい」
不意にウルガイが凍った部下に呼びかけた。答えはないが、彼は構わず続ける。
「面倒見の良い貴方の事だから、きっと体を張って二人を守ったのでしょう。よくやりました」
一拍置き、頑とした声で言い放つ。
「ですが、死ぬ事は許しません」
――無茶な。
学生二人は言葉を失ってしまった。ラリーは氷像状態だ。聞こえてどころか、生きているかすら疑わしい。
だが、ウルガイは強い調子で告げた。
「命令です。死ぬ事は許しません」
同時に、その足元から青い光の柱が立ち昇る。
――否、それは光ではなく、静かに燃え盛る青い炎だった。『火剣』のような身をくねらせて燃える業炎ではなく、激しさを内に秘めた静かな炎だった。
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