中盤ノ弐

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(…大きい) ウルガイの背中を眼前に、セリとキースは同じ事を感じていた。 ――なんて大きくて、優しい魔力。 立ち昇る青い火柱と共に滲み出る魔力は、彼らに抱きしめられているかのような安らぎを与えた。 だが一方で、相対する悪魔は攻撃を止め後ずさった。その表情には恐怖が刻まれ、明らかに怯えている。 ウルガイの魔力は確かに驚く程大きい。だが二人には、穏やかな性質の魔力に何故そこまで怯えているのか解らなかった。 「流石は『静炎(せいえん)』だな。何と静かで力強く――恐ろしい」 感じ入ったようなリュカの言葉に少年少女が驚愕する。 『静炎』。それは『火剣』と並んでコーセリアに轟く火属性の二つ名だ。その者の背負う青い炎は決して揺れず、真っ直ぐ天へ立ち昇る。神聖呪装に選ばれていないにも関わらず、隊長格並の実力があるとされている英傑だ。 だがふと疑問が浮かぶ。こんなにも優しい魔力だというのに、何故恐ろしいのか。 そんな二人の顔を見て、大鷹は首を傾げた。 「知らないのか?『静炎』は守ると決めた者には限りなく優しく、倒すと決めた敵には一切の慈悲もない。身の内に消える事も揺らぐ事もない炎を宿し剣を振る。今あのベスは、潰れそうな程の重圧を感じている事だろう」 セリとキースは、普段の彼からは想像もつかない話に、知らず唾を飲みこんだ。そんな二人の前で、ウルガイは悪魔に告げる。 「ベスよ、まだ幼いとは言え私の部下にした事は許し難い。今去るなら見逃しましょう」 威厳を持って発せられた言葉にベスがたじろぐ。 ウルガイの「幼い」という単語に驚きを隠せない学生達だったが、声には出さずにすんだ。 そして悪魔は、窒息してしまいそうな威圧感に身を震わせながら、発狂するように叫び大地を蹴った。 ――ゴアアァァ!! 「…残念です」 肉薄する氷の悪魔にウルガイが小さく呟いた――直後、青い線が閃いたかと思った途端ベスの右腕が肩から飛んだ。 ――なっ!? 少年達の顎が落ちた。 (まったく見えなかった…) 彼らには見えない速度で斬ったウルガイは、右手に剣を握っていた。 シンプルな造りだが名刀だと一目で判る。その鍔元にラリーと同じ赤い石が嵌め込まれ、更には鍔自体と柄の底にもありそれぞれが輝いていた。その剣全体を青い炎が包み込み、刀身を倍以上に伸ばしている。 「言っただろう。我々のする事はもうないと」 大鷹が落ち着いた声で宣った。
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