中盤ノ弐

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――ゴァァァ…! 氷の悪魔が悲鳴を上げた。セリやキース、それに使い魔達があれ程苦戦した悪魔が、ウルガイ一人に追い詰められていた。 彼の持つ青い炎の剣、あれは高密度の属性付加だ。そしてそれを可能にしているのが、剣に嵌められた三つの赤い石。あれらは恐らく何らかの術式が込められた魔石だろう。 ――でなければ、あんな密度の魔力の火に包まれた剣は一瞬で熔けてしまう。 刀身の伸縮はウルガイの制御によるものだろう。今は元の刃を包む程度に戻っていた。武器の間合いが伸びる。それだけで脅威の度合いは跳ね上がる。 「…これが『静炎』…」 呆然とキースが呟いた時、ベスが一刀のもとに斬り伏せされた。 力ない悲鳴を上げながら大地を揺らして倒れ、氷の悪魔は二度と動かなかった。 ――何て圧倒的。 二人は自分の弱さをまざまざと突き付けられた。 ―――――――― この衝撃的な終わりの後すぐ、救援部隊が彼らの元にたどり着いた。騎士達は変わり果てたラリーにショックを隠せなかったが、リュカと共に数人で丁寧に運んでいった。 セリとキースは報告のため、ウルガイと共に本陣へ戻った。 「…そうですか。それは大変でしたね」 二番隊隊長のマリエラ・フォン・ガリアブルーは、見習い達の報告を聞き小さな息を着いた。そんな仕草ですらどこか高貴で、セリとキースは見とれてしまう。 光の奔流のような髪は、象牙を思わせる淡い黄白色。形の良い輪郭と綺麗な目鼻立ち。瑞々しく張りのある白肌には黒子一つなく、頬がほんのり薄桃色をして、血の通った唇は花びらのようだ。温かみのある瞳は青く透き通り、理知的な光を湛えている。 身長はセリより僅かに高いか、鈍く光を弾く甲冑の下にドレスのような服を着ている。二十代前半位なのだろうが、大人と子供を合わせたような若く妖艶な容姿をしており、一見で歳はわからない。 きっと、天使が甲冑を着たらこうなる。そんな事を考えてしまう美貌が、彼女にはあった。 「二人ともお疲れ様でした」 マリエラが少年少女に微笑む。それだけで、彼らは少し癒された気がした。 呆ける二人を置いて、隊長と『静炎』は難しい顔をしていた。 「姫様」 「隊長と呼びなさい、ウルガイ。解っています。ベスはこの世界には存在しません。誰かに召喚されたのでしょう」 再度、彼女は息を着いた。 「どうやら何かありそうですね。急いで陛下に報告しましょう」
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