中盤ノ弐

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―――――――― 仲間内の二人が死線を越えてから数週間が経った頃、モルガへ向かった一行は旅程の半分に辿り着く所だった。 「おーこれがモルガの自然防壁、ゲヘナの森か。はっはっは不気味過ぎ」 ヘラヘラした笑みを浮かべながらチトセは眼前を見上げた。彼の隣では三人の少年少女があんぐりと口を開けている。 彼らの前には、筆舌に尽くし難い光景が広がっていた。 果たしてこれを森と呼んでいいのか。緑の草原や山々で成り立っていた景色に、突如豊かな色彩が飛び込んで来た。 鮮やかな赤みを帯びた幹から、黄色と緑の斑模様の触手のような枝を伸ばすモノ。深緑で巨大な苔の塊のようなモノ。橙と赤の縞柄の幹から薄紫色の実のような物を着けたモノ。全身桃色でとにかく枝を逆立てたモノ――。 多種多様で今まで見たことのない植物が生い茂っており、正直不気味だ。 「何これ…」 目をひんむいて呟いたリズの声は、その心境を如実に語っていた。その隣では深紅の青年が面白そうに森を眺めている。 「すげえな。でかい珊瑚礁が地上にあるみてえだ」 「噂に聞いた事はあったけど、ここまでとは思わなかったな」 あんぐりと口を開けていたグレンがぼやき、ファラーまでもが目を円くしていた。 コーセリアを出発して一ヶ月と六日、彼らはようやく旅程の片道分を終えようとしていた。 セツナの急襲後、チトセと三人の間には気まずい雰囲気があった。そのため一時は三人を帰らせようとした深紅の青年だったが、少年達は頑として受け入れなかった。 故に、なんかもう気を使うのも面倒になったチトセは、結局変わらぬ態度で彼らに接した。それが功を奏し気まずさが少しずつ薄れていった。 そうして四人は紆余曲折を経ながらも、モルガを囲む自然防壁であるゲヘナの森に辿り着いたのだった。 「ゲヘナの森とはよく言ったもんだ。この世の風景とは思えねえ」 街道は巨大陸上珊瑚礁を二つに割るようにしっかり整備されいる。その脇からすぐに色とりどりの樹木が立ち並び、その光景は馴れない者にとっては異様だった。 「さて、この森を一日半くらい行けばモルガに着くはずだな。流石に防壁だけあって、直ぐには通過出来ねえか」 地図を確認して言う青年は実に楽しそうで、新しいものを発見した子供のように表情を輝かせている。 その傍では、こんな得体の知れない森に一日もいるのかと顔を引き攣らせた三人が息を吐いていた。
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