中盤ノ弐

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北大国モルガ。その首都モルギスを守護する自然防壁、ゲヘナの森。有り余る不気味さを見せ付けながら首都を丸ごと厚く囲み、街道のみを唯一の道としている。 「ハハハハハ、何だコレ見た事ねえ」 一行はその街道を進みながら、興味をそそる物があると一通り手に取ったりして観察している。 ――というか一刻も早く先へ進みたがる者の言うことも聞かず、青年は個人的新発見に夢中になっていた。 森には動物や魔物の気配もあるのだが、目につくのは森に負けない位色鮮やかな鳥や大小様々な虫ばかりで、大きな獣などの姿は見ない。 それでも初めて見るものばかりで、発見は数えるのが馬鹿らしいくらい多い。 「ダーウィンがいたら大喜びしそうな森だな。お、コレ食えそう」 笑いながら見回した先に、黒と緑の横縞の果実がなっていた。チトセはそれを手に取り匂いを嗅ぐと、無造作に噛み付いた。 「ちょっと!何食べてんのよっ」 リースレットが慌てて咎めると、彼女の使い魔は笑ってもう一つ実を取り差し出した。 「大丈夫だよ。毒じゃねえ。毒でも死ぬようなもんじゃねえって。食ってみ。ちょっと甘めの西瓜みたいな味がすっから」 「何で死なない毒だってわかるのよ?」 「何でって…勘」 「勘って…」 そんな根拠もない理由を告げられると、手に取るのも気が引ける。恐る恐るという感じで手を近付けるリズの脇から、果実を掠め取る手があった。 「ちょっ、ファラー」 シャク、と黒髪の少女は躊躇なく果物を口にする。 「おいおい、大丈夫なのか?」 グレンが心配そうに尋ねるが、ファラーは表情を崩さず口を動かす。 「…おいしい」 「ウソっ?」 「マジかっ?」 驚く二人に頷き、少女は食べ続ける。 そんな連れを笑いながら、チトセは森を見回した。風が流れ葉が擦れる音がするくらいで、生物の鳴き声などは殆ど聞こえず、鳥の鳴き声ですら少ない。 ――だが、青年は別の事を感じていた。 (なーんか空気が騒がしいな) シャクリと果実を食べ終わると、街道の脇に残骸を投げ捨てる。 (森全体がざわついてるっつーか…落ち着いてないな) 「…チトセ?」 珍しく思案顔の青年が奇妙だったのか、主のリズが彼の顔を覗き込む。だが青年はいつものように微笑み、予定を告げた。 「さて、今夜は残念ながら野宿だな。ま、油断しない程度に気楽にいくか」 後半に引っ掛かるものを感じたが、三人は同意した。
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