中盤ノ弐

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夜の森は昼とは違う顔を見せた。 提灯の様に発光する花が幾つかあり、闇に極彩色の植物がうっすらと浮かび上がる。 時折何かの鳴き声が空気を伝わり、悪寒が背中を走る。姿はなくともそこらじゅうから視線を感じ、学院の樹海やランジェロ山脈の森を思わせた。 街道宿も見当たらないため野宿の準備をしていた所、三人の学生達が刺すような視線の事を青年に訴える。 「殺気とかは感じないから気にすんな。最初の見張りは俺がやるから、自分の番までしっかり寝とけ」 そう言いながらチトセはひそかに感心していた。視線がわかるという事は、彼らの気配への感覚が鋭くなった事を意味しているからだ。 ――成長したなあ。 そんな事を思われているとも知らず、少年達は焚火を囲んで横になった。見られた状態で寝るというのは気持ちのいいものではないが、彼らは神経も多少太くなったようで直ぐに眠りに落ちた。 三人の寝息が聞こえ始めると、チトセはモクを取り出し火を点けた。一度深く吸い込み、鼻息と共に煙を吐き出す。 夜の森はとても静かで、けれど昼に感じた空気のざわつきは変わらない。鋭敏な彼の感覚が、肌にそれを感じていた。 (あっちの世界の森にも樹海にも、こんな空気はなかったな。ここが変なのか?) 自問しても自答には至らず、青年は頭をかいた。紫煙を吐きながら立ち上がり、少し焚火から離れた。 ――その夜、やけに響き渡る遠吠えにファラーが目を覚ました。あちらでこちらで上がり、その声は何かを訴えるようだった。 寝ぼけ眼を動かすと、薄闇から出てくるチトセに気付く。その手に発光する花をもち、物珍しそうに辺りを照らしていた。 そんな子供のような姿が微笑ましくて、自分でも気付かないくらい、彼女の口が微かな弧を描いた。 ――翌朝、最後の見張りだったグレンに起こされ、三人は目を開けた。それぞれ欠伸等をしながら出発の準備をし、首都モルギスへの最後の距離を進んだ。 そして漸く、彼らは首都に辿り着く。一月強に渡る旅路の末に着いた事で、感慨深く達成感を感じる。 コーセリア王都コルザ程ではないが、見上げる程に大きい城壁。奥には山を削りながら造り上げたような階段状の街が見え、その上には重厚な外見の城が確認出来た。強固、堅固、頑強。そんな言葉が思い浮かぶような造りは機能美としての美しさが窺えた。 「まるで要塞だな」 グレンの言葉に同意しつつ、彼らは城壁門を潜った。
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