中盤ノ弐

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門を通過した後、リズがポツリと呟く。 「…静かな街ね」 「っつーより、うるさくない街だな」 金色の主と深紅の使い魔のやり取りは的を射ていた。 目に映る街はコルザよりやや小さめで、広い通りに蜂蜜色の古く赴きのある建物が並んでいる。店も出ており賑わいはあるのだが、どこかしっとりした雰囲気が満ちていた。 例えるなら、コルザの賑わいを都会の喧騒としたら、モルギスの賑わいは古い街の穏やかな空気といった感じだ。 人々の顔には微笑みが浮かび、ゆったりと流れる時間を楽しんでいるようにも見える。 ――人々。そう、この国には人も住んでいる。 北大国モルガは、銀の一族シルヴィオが統治する大王国だ。国内の主要都市も、基本的にはシルヴィオが治めている。 しかし自然の摂理と言うべきか、長命強者の彼らの人口は、短命弱者の人間と比べるととても少ない。故に、基本的には他民族の居住を受け入れており、場所によっては亜人という種族が多くいる街もある。 「特に首都に住む人々はシルヴィオの影響を強く受けてっから、時間をゆっくり流れるものとして捉えて隠居みたいな生活をゆったり楽しんでるらしいぞ」 三人はチトセの説明に納得して何度も頷いていた。 一行は大通りを進んだ。服も肌も薄く汚れていたが、道を行く人は彼らを微笑と共に受け入れる。 「さて、そんじゃ城に行くか」 意気揚々と足を出す青年を、他の三人が呆れながら引き止めた。 「何言ってるのよ。こんな格好でお城に入れる訳ないでしょ。まずは宿を探して体の汚れを落として、正装もしないと」 「そうだぞチトセ。お前のいた世界は知らないけど、こっちは礼儀が大事なんだ。特に王様に謁見しようなんて時はな」 リズとグレン、二人に釘を刺されれ、青年は首を傾げる。 「でも俺、おっさんと話す時はこのまんまだぞ?」 すると三編みの少年の方が溜息と共に返した。 「あの方は良くも悪くも特別なんだよ」 ――ああ、なるほど。 思わず納得した。あの王様は、下民出身だからか欲がない。多くを求めず必要な事を見逃さない。そのくせ押しも強く、断行するような時もあれば、平気で規則を破るような時もある。 「ほーんと王様らしくないのに立派な王様だよな」 彼との会話を思い出すと笑いが込み上げてしまう。 「とりあえずわかった。じゃ宿探そう」 彼らは首を巡らせながら歩いた。
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