中盤ノ弐

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「すまんな、長く生きていると面白いものに貪欲になる。出来る限り長引かせたいと思うのじゃ」 そう、ひとしきり声を漏らした後、闇姫は姿勢を正した。 「では名と用件を聞こう、使者殿らよ。ああ、口調は元に戻して良いぞ。我々シルヴィオは長命故おおらかじゃ。小さい事は気にならぬ。それに面白いものは面白いまま愉しむのが妾の主義なのでな」 「そうか?モルゲン卿とブラディミアは結構短気だったぜ?」 「奴らはきまじめ過ぎでな、慣習や規則に煩いのじゃ」 また極端に口調を変えた深紅の青年を気にする事なく、モルガ女王は溜息をついて見せた。 その順応の早さに甲冑一同の顎が落ちる。端から見たらただのギャグのようだ。 その辺は完全に黙殺して一つ咳ばらいをすると、ルナティアは王たる威厳を纏い口を開いた。 「妾はモルガ国王、ルナティア・ウノ・モルゲンじゃ。よくぞ参られた、使者殿らよ」 国の代表としての挨拶と共に学生達に視線を移す。それに重みを感じ、少年少女が名を告げた。 「お初お目にかかります。私はコーセリア王立コルセス学院第三学年、グレン・フォードと申します」 「同じく、ファラー・ゴルドバーグです」 「同じく、リースレット・フォン・ルーベンシュタインです」 三人が畏まって自己紹介をした――にも関わらず、青年はモルガ王の先程の言を躊躇なく実行した。 「サーヴァント、チトセ。トムから手紙を預かって来た」 言葉と一緒に懐から手紙を取り出す。 ――台なしである。 甲冑姿の者達から剣呑な雰囲気が漏れ出す。 青年の短い紹介に眉をひそめながら、闇姫は甲冑の一人に指示を出し手紙を持って来させる。書面を開きその場で読むと、呼び鈴を取り出して鳴らした。 いくばくもしない内に部屋の隅から人が現れた。よく見ると小さい通用口がある。 「お呼びでしょうか」 精悍な老紳士を思わせる男に無言で手紙を渡すと、ルナティアはチトセに目を向けた。紳士は姫の脇で直立不動の体勢を取る。 「チトセと申したな。サーヴァントとはどういう事じゃ?」 「そのまんまさ。俺はそこのリズ――リースレットの使い魔だ」 深紅の青年が金色の少女を指差した。 「馬鹿を申すでない。人が人を使い魔に出来る訳がなかろう」 「そうなんだろうけどよ、これは珍しい事なんだ」 回りくどい言い方に無言で先を促す銀月の姫に、チトセは苦笑しながらこれまでの経過をかいつまんで話した。
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