中盤ノ弐

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突然こちらに喚ばれリズと契約した事、ディオガに気に入られ、トマスに会い、慣れるまで契約を結んだ事、魔物の調査の事など。大部分を省略した話を青年は短く語った。 「――なるほどのう、だいたいの事情は解った。俄かには信じられぬが、理解はした」 チトセの説明に頷きながら、ルナティアはどうにか受け入れてくれたようだ。 「だが解らぬ事がある。何故コーセリア王の手紙に、そちに協力して欲しいという部分があるのじゃ?いかにあやつが変わり者の国王とは言え、調査ではなく、そちを名指しで協力を仰ぐのは些か不自然じゃ。それに――」 そこで止め、左手を出すと、脇に立つ老紳士が別の手紙を置いた。 「ボルグレイからも似たような要望があった。そちの話を聞いて欲しいとの事じゃ。最近異世界から喚ばれたにしては、早過ぎる影響力の保持じゃ。チトセ、そちは何者じゃ?」 深紅の青年は驚いていた。トマスが協力を頼んでいた事もそうだが、ボルグレイからも同じ内容の手紙が来ていた事に。だが同時に二人に感謝した。これで話を持っていき易い。 「慧眼恐れ入るぜ。けど俺は別になんでもねぇ。ただの化け物だ」 「化け物じゃと?妾の前でそれを言うのか?」 青年の思わぬ化け物発言に、格上が笑う。 「ま、あんたやじじい――ディオガに比べれば俺なんて可愛いもんだけど、そりゃ別の話だ。本題は俺の育ての親が関わってくんだけど…」 「育ての親?」 「ああ、聞いた事あるか?ロカってんだけど――」 ――その瞬間、銀月の姫の表情が消えた。 微動だにしなかった甲冑群がざわつき、老紳士が驚愕に目を見開く。 今まで明るかった空気が嘘のように重くなる。日は差し込んでいるのに、闇に呑まれたかのような感覚に陥った。 リズとチトセは、ボルグレイの反応を思い出した。彼の闇傀儡師でさえ見せた驚きの反応が、ここでも起きている。 ――ただここでは、脳髄を警戒信号が駆け巡る程危険を感じている。 (オヤジ、あんた一体何モンだ) 一国の王が激変する程の存在だというのか。 チトセが背中に冷たいものが走るのを感じていた時、闇姫がおもむろに立ち上がった。 そこに先程まで笑んでいた彼女はいない。顔に表情がなく、鳥肌が立つ程視線が冷たく鋭い。 ――何より、透き通る夜藍色だった双眸が、鮮やかなまでも紅玉色に変化していた。
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