中盤ノ弐

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その解も単純だった。 答えは、十歳の時に与えられてからだ。青年は現在十九歳だから、十年弱着け続けていた事になる。 ――拳神が石を外さないよう厳命していた理由が解った。 今の状態は、そんな長期間閉じていた蓋から中身が溢れ出しているようなものだ。つまり、緑皇石の相殺量以上の魔力量があるという事になる。完全に開いてしまったら何が起こるかわからない。 ましてやチトセは魔力に詳しくない。魔法など使ったことがない。そんな所に膨大な魔力が溢れれば、下手をすれば暴走。 ――最悪、暴発自爆だって有り得る。 リズ、ファラー、グレンが互いの顔を見た。三人とも考えている事は一緒のようで、若干青ざめていた。 今漏れ出ている魔力は、恐らく感情の高ぶりが原因だ。だから落ち着かせれば大丈夫だろう。 だが、いかんせん闇姫と青年の威圧に潰されそうな所である。彼を落ち着かせるどころか、立ち上がる事すら難しい。 彼らが体を起こす事に奮闘している頃、ルナティアが目を細めたままチトセを見ていた。他の者が彼のみを凝視している中で、彼女だけはある事に気づいていた。 ――立ち上る深紅の魔力が彼の体から離れて宙に浮き、数メートル昇った辺りで黒い蝶に形を変えていた。 黒蝶となった魔力はヒラヒラと飛び回り、しばらくして霞んで消えた。 あれは何かと青年を観察すると、彼の右腕にふとした違和感を感じた。 別に変形したりとか光っているとかではない。ただ、彼の魔力が意図的にそこに流れているように見えるのだ。 ――とは言っても、相当の実力者でないとわからない程の微妙なものだ。 (アレはもしや…) 考えるが早く、銀月の姫は一歩前に出る。それだけで場の緊迫度が跳ね上がった。 オルドは不気味な青年に対しどこか不安を露わにし、学生達は少しでも止めようと焦り、そしてチトセは静かな瞳に最大限の警戒を映しながら、未だ輝く闇姫の紅玉の瞳と視線をぶつけた。 「チトセ、そちの右腕を見せてくれぬか?」 「あ?」 突然の申し入れに、青年は片眉を上げた。 「右腕がどうした」 「よいから見せておくれ」 「何でだよ。理由を言え」 あくまで反抗的なチトセに溜息をつき、「もうよい」闇姫の姿が消えた。 ――移動した。 そう思ったのも束の間、既に彼の背後に回りこんだ姫は、青年の服の右袖を肩から強引に引きちぎった。 ――瞬間、いくつかの息を飲む音が重なった。
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