中盤ノ弐

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チトセは舌打ちしながら距離を取る。だが闇姫は追撃せず、無造作に右袖を放り投げた。どうやら本当に右腕が見たかっただけのようだ。 「何がしたいんだ?」 彼女の意図が解らず、青年が苛立ちを隠さずに尋ねた。 だか姫からの返事はなく、おまけに妙な空気が漂っている。 そんな中、金色の少女が、微かに震える声で沈黙を破った。 「…チトセ、それ…何…?」 「それって何だ」 闇姫から目を逸らさずに返すと、姫本人が割り込んでくる。 「そちの右腕の事じゃ」 「右腕?ったく俺の右腕がどうしたって――」 ぼやきながら自分の腕に目を落としたチトセの言葉が止まった。 ――何だコレ。 そこには草のツタのような模様が浮かび上がっていた。それが右の肩から肘の先までを縛るように覆い、微かに蠢いている。 ――何だコレ。 チトセは自問を繰り返す。あまりに予想外の事に言葉を失った。何がどうしてこんな事が我が身に起こっているのか、皆目見当がつかなかった。 部屋に沈黙が訪れた。闇姫以外事態を理解している者がおらず、状況が膠着したかに思われた。 だが、そこはチトセだった。 深紅の青年は右手を閉じたり開いたり、肩を回したりすると一つ頷き、何事もなかったかのように闇姫に向き直った。 「よくわかんねえけど問題ねえ。続けんぞ」 動けばいい。そんな事をのたまう彼とは対照的に、 「嫌じゃ。気が失せた」 闇姫様は威圧を止め、肩をすくめて答えた。 ――この野郎。 チトセの怒りのボルテージが跳ね上がる。闇姫からの威圧感はなくなったというのに、部屋を押し潰すような圧力は治まらない。 この空気を彼が一人で作り出している事に、オルドは畏怖さえ覚えた。 それにも関わらず、ルナティアはまるで青年をあやすかのように手をヒラヒラさせた。 「そういきり立つでない。詫びとして妾の知るロカの話をしよう」 ――は? チトセがきょとんとしている隙に、姫様は玉座へ移動した。そしてそのまま腰をおろすと、どこから話そうかなどと呟きながら思案し始めた。
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