中盤ノ弐

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命を賭けて掴み取るはずだった自由は、闘志を漲らせた途端放り投げるように与えられた。 ルナティアの突然過ぎる心変わり。裏に何かがあると勘ぐってしまうのも仕方がない。 チトセは彼女の狙いを見抜こうと目を凝らすが、今の闇姫からは戦闘に対する意欲も感じられず、こちらもやる気が萎えてしまう。 彼としては一発もらい損なのだか、こうなっては仕方がない。やる気のない相手と闘う程、彼も戦闘狂ではない。 それに、闇姫の心変わりの原因は、明らかに右腕の異様な模様だ。彼女の真意をも知りたい。 ――とはいえ、やっぱり借りたままはストレスが溜まる。 深紅の青年は、息を吐いて威圧を収めると、こんな事を尋ねた。 「わかった、話してくれ。でもその前に、何か壊していいもんないか?」 急に消えた圧力と彼の質問に、食い縛っていたオルドの顎がストンと落ちた。同様に、意識を保っていた者も言葉を失い、学生達に至っては呆れて二の句も告げない様子だった。 さすがにチトセの不機嫌を悟ったのか、ルナティアが苦笑しながら答えた。 「すまぬが我慢してくれ。そちに暴れられると、後片付けが大変そうじゃ」 ――自分は人の事壁にめり込ませといて、よく言うぜ。 青年がそんな気持ちを目一杯込めた白い目に、闇姫は苦笑を深めるしかなかった。 「だから悪かったと言っておるじゃろうに。それよりもロカの事を知りたいんじゃろ。ついでに右腕の模様の事も気になるじゃろ?」 話をそらすにはちょっと無理矢理だが、それも正しいためチトセは頷いた。 正直この模様は気色悪い。これから夏本番だってのに、袖も捲れない。 そんな青年のズレた感性を知る由もなく、闇姫様はどう言葉にするか悩んだ挙げ句、さっぱりストレートに告げたのだった。 「その模様は、ある種呪いみたいなものじゃ」 チトセは思わず耳をほじった。
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