中盤ノ弐

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込み上げる羞恥を怒りで誤魔化しているのを見抜いたルナティアは、腹を抱えつつ声を殺して笑うという芸当をしてのけた。 だが、再び重圧に潰れる甲冑や学生には、いいとばっちりでしかない。 「チ~ト~セ~」 さすがにうんざりしたのか、金色の少女が唸るような低い声を響かせた。彼女の周りに蒼い魔力が逆巻き始め、僅かながら威圧感を纏わせる。 そうしてリズは、生まれたての動物みたいに震えながら、けれど体に力を入れて立ち上がった。 その様子にチトセは内心感心し、グレンとファラーは目を見開く。 ――この潰れそうな圧力に耐えて立った? 今青年が発しているのは、ただの威圧だ。殺気などが込められてない分、先程よりは厚みも重みもない。 とはいえ、それでも重圧は重圧だ。それなりに実力がないと動く事は難しい。 正直なところ、ファラーもグレンも、自分の実力はリズより上だと思っている。それは今も変わらないが、少なくとも学院にいた頃は確実だった。 ――だからこれは、もしかしたらこの金色の少女は、見えない所で急成長しているのかも知れないと思わせる出来事だった。 二人がリズの認識を改めていた時、青筋を立てた金色の主が深紅の使い魔を睨み上げた。 「あんた…いい加減にしなさい!!」 言葉と同時に、魔力が突風となって青年を襲う。それは彼女の未熟な威圧を伴い、使い魔を微笑ませた。 (何だかんだ心は強くなってきてるじゃねえか。後は…力か) それにまぁ、確かにいい加減にしないと話も進まない。 苦笑を滲ませつつ、チトセは威圧を収めた。ようやく解放されたファラーとグレンが、リズに遅れて立ち上がる。 「悪い。ちょっと自分を見失った」 無論嘘だ。 真実は恥ずかしさを誤魔化していたに過ぎない。しかし育ての親に呪いをかけられていたなんて事実が解れば、そうなってもおかしくはないだろう。 果たして、予定通り青年の気持ちを慮ってくれた学生達は、仕方なく怒りを収めてくれた。 そうして彼ら四人は、改めて闇姫に相対する。 「ふむ、まとまったようじゃな」 「おかげさんでな」 喜劇を楽しんでいたルナティアに、チトセが苦笑しながら答えた。次いで、落ち着いた右腕の刺青を見せなて尋ねた。 「最初にこいつについて教えてくれるか?呪いみたいな効果っつってたけど、命に関わるもんなのか?今んとこ何もないけど」
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