中盤ノ弐

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「あくまで妾の推測じゃが、命に関わるものではあるまい。それは恐らく保険じゃ」 「保険?」 意外な単語の登場に、青年は片眉を上げた。 「そちも知っておろうが、魔力は成長と共に増える。そこでその緑皇石に込められた完全封殺式のようなもので常に消費させる事で、魔力量の増加速度を速める事が出来るのじゃ。負担も増えるがな。そちもその石を着け始めた頃は何度か気絶した事があるのではないか?」 ――ああ、そういやあるな。 思い返せば、石を着けた最初の頃はやけに体がだるかった。姫の言う通り気絶した事も何度かある。 「心当たりはあるようじゃな。気絶しなくなったという事は魔力量が増えたということになる。それを続ければ絶対量も徐々に増える。そうして完全封殺式の許容量をこえた時のために、その刺青があるのじゃろう。効果は暴走防止と、魔力の継続的消費によると言った所か。要は二つ目の蓋じゃ」 ルナティアによれば、漏れだした魔力は黒い蝶を形作り、宙を彷徨った後霧散したという。その際、右腕の術式も発動していたようだ。 ――なんつう厳重体制だ。 それがチトセが最初に持った感想だった。 当然、青年にこの所業がいかに困難か理解出来る訳がない。 これは魔道具に使用される魔法効果の付与と同種だ。だが、二つ以上の術式の同時発動――この場合、ツタによる暴走防止と黒蝶による魔力消費だ――は非常に難しく、しかも生きている物に付与するとなると困難を極め、下手に失敗すれば命に関わる。 その意味では、青年に刺青を施した人物は、魔法に関して化け物並みに優れている事がわかる。 しかし、魔法の必要性を未だに感じていないチトセにとってそれは大した事ではない。 (オヤジは俺に魔法でも教えるつもりだったのかねー) 疑問はあれど、その程度だ。 ――ま、答えなんか出ねえんだ。悩んでも仕方ねえ。とりあえずなんでもねえって判っただけでよしとしよう。 思考を切り替えたチトセは一つ息を吐き、続いて闇姫にきいた。 「そんじゃあんたの知ってるロカについて教えてくれるか?」 「うむ、そうじゃのう…妾の知るロカは、少しそちに似ているかもしれん。無論言動や品格は天と地程の差があるがの。ただ、きゃつは何よりも自由を愛しておった。先程のそちの言葉と同じ事を言っておった」 ――俺から自由を奪うなら殺せ。 それはきっと、チトセが育ての父から受け継いだ精神だった。
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