中盤ノ弐

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「きゃつは美しいカタチをしていた。容姿はもちろんだが、なんというかその、在り方がな」 ルナティアは話ながら目を瞑り、記憶に残る彼の人の姿を思い出す。 柔らかな物腰、清らかな立ち姿、穏やかな笑みと優しい口調。一挙一動があんなに優雅な者を他に知らない。自由を愛し、時に破天荒な行動にも出る。 「ロカの破天荒ぶりには迷惑もしたものじゃ。柔和な顔立ちに騙される者が多かったしのう」 零れるように紡がれた彼女の知るロカ像に、青年は苦笑を浮かべた。 「聞いてる感じ、俺の知ってるロカとそっくりだな」 彼も思い出したのだろう、声に懐かしさが滲んでいる。 「俺はオヤジはロカとしてしか知らねえけど、あんたの方はどうなんだ?」 「うむ、妾の知るロカの本名は、ロクフィーリオ・セロ・モルゲン。モルガの先々代国王にして始祖の血を引く原系、そして大陸を半ばまで制覇した所で飽きて投げ出した男じゃ」 ――はい? 刹那、時が止まった。 聞き間違いかと思った学生達は同時に首を傾げ、チトセに至っては再度耳に指を突っ込む。 国王?原系?大陸半制覇?飽きて投げ出した? 育ての親を説明するのにおよそ相応しくない言葉の羅列に、意味は判っても理解出来なかった。 「…やっぱ別人だったか?オヤジは確かに怪物みたいに強いけど、大陸制覇とか考える奴じゃないし、国王なんて柄じゃないにも程があるぞ?」 「そちにとってはそうじゃろうな。じゃがそちの世界との状況の違いを考えてみよ。こちらでは、原系の者は生まれながらに王になる事が決まっておる。血の濃さでは妾に優る。そこに自由はないのじゃ」 この場合、直系とは王家の血筋を言う。対して原系とは、始祖と呼ばれる最初のシルヴィオの血を引く者を意味する。 王家の筋は、始祖の内でシルヴィオをまとめようと立ち上がった者の家系の事だ。だが他種族や始祖以外と交ざり、その血は薄くなった。 それはそれで大事にされているのだが、原系という始祖同士から生まれた子供は、血の濃さにより王家より重宝される。故に、原系がいない時は王家が仕切り、いる時はその者が上に立つ。 「シルヴィオは元々定住する種族ではなかったらしい。じゃが強者故、差別も激しかった。そうして妾の先祖は、安住の地としてモルガを建国したと言われておる。じゃが我らの歴史がいつから始まったかは、もはや定かではない。原系もロカを最後に消えたとも言われておる」
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