中盤ノ弐

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闇姫の語りは妙なる調べのようで、自然に聞き入ってしまう。 いつの間にか意識を取り戻した甲冑群も、絵本を読んでもらう子供のように静かにあぐらをかいて聞いていた。 「成る程ね。つまり、王家以外の始祖ってのには放浪癖があったんだな。そう考えると、オヤジもまともに組織にいなかったな」 根なし草の原系が帰って来た時だけ、王様を交代していたと言う訳だ。 「そういう事じゃ。じゃがロカは珍しくここで生まれたらしくの、幼い頃から王としての教育を受けていた。当時の王にしてみれば、押しつける格好の相手だったんじゃろうな」 なんだ、その王様も飽きてたんじゃねえか。 出かけた言葉を飲み込み、チトセは苦笑した。 ともかく、こちらではまがりなりにも王だったようだ。ならば個人の自由など許されるはずもない。民意を尊重しなければならず、王という立場はきっと、自由とはかけ離れていたことだろう。 「きゃつが大陸制覇を試みていた頃に我慢の限界が来たのじゃろうな。『飽きました。もう王様辞めます』 そう言って投げ出したそうじゃ」 青年は思わず吹き出した。さすがオヤジと言わんばかりに力強く親指を立てる。 一方、しっかり常識を持つリズらは、もしトマスがそんな事したらと考えるだけで身震いが起きた。その場にいる他の者も皆、ため息と共に肩を落とす。 「じゃがさすがにそれは酷過ぎた。城者も国民も怒り、ロカ以外の一族がきゃつの敵となった。国王とて許せるものではないとして投獄しようとした」 死刑にしなかったのは、ロカが原系だったからだ。 「その時じゃ。今まで味方だった軍に囲まれた状態で、ロカは微笑みながら言ったという」 『私から自由を奪うなら殺しなさい』 下手したら命を失いかねない状況で、彼は笑って言ったのだ。 「ん?なんか最近似たような事があった気がするな」 ――お前の事だよ。 首を傾げる深紅の青年に対して、みんなの心が一つになった。 「どうじゃ?そちの言うロカとの共通点はあるか」 「ああ、かなり類似点があるな。しっかし確信が出来ねえ。何か肖像画みたいなもんはないか?」 「そうじゃの。確か歴代国王は肖像画が飾ってある。ふむ、久しぶりにきゃつの顔でも拝みに行くか。ついて参れ」 立ち上がった闇姫に続き、四人は部屋を後にした。 その時チトセは、素直に思った。 ――最初っからこうすりゃよかった。
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