中盤ノ弐

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「どうじゃ?」 「ああ、間違いねえ。オヤジだ」 姫の問いに、チトセは確信をもって首肯した。彼らの側では、リズ、ファラー、グレンが口を開いて呆け、オルドが神妙にその絵を見ていた。 六人の眼前には大きな絵画があり、見事に描かれた人が穏やかに微笑んでいた。 シルヴィオだから年齢はわからない。だがそこに在る姿は、ルナティアにも似た超越した美を備えていた。 薄い銀の長髪は一つにまとめられ、肩から前に流している。透明感のある肌は大理石のように白く、淡く光って見える。人の域を越えた秀麗な顔立ちの中、緩やかに細められた両目の隙間からは鮮やかな純紅の瞳が覗き、絵でも判る程の深遠なる英知を感じさせる。 絵と解っていてなお見惚れる美貌の男性が、柔らかい雰囲気には少々不釣り合いだが、威厳を感じさせる豪奢な服を着た姿は立派としか言いようがない。 「…やっぱそういう服は似合わねえなあ、オヤジ」 だが、青年はついしみじみと言ってしまった。それが可笑しかったのか、ルナティアがくすりと笑みを零す。 「この姿を見て嘆く者もそうはおるまい。そちはほんに面白いの――じゃが妾もそう思う」 思わず溜息をついてしまうオルドだが、実は同感だったため何も言わなかった。 「しかしそうか…そちはロカの息子なのか」 「血は繋がってねえけどな」 別に何でもないと言うようにチトセは答える。それにルナティアにしてみれば、この青年は消えたと思っていた男が異世界で生きていた証だ。血縁など問題ではない。 「そういやあんたはロカの何なんだ?何か恨んでるみてえだけど」 チトセがふと思いついたような顔で尋ねた。これは純粋な疑問だが、恨んでいると思ったのは先程受けた攻撃からだろう。そうでもなきゃ、あんな強力な一撃は割りに合わない。 闇姫は少し困ったように笑った。 「そうじゃな、確かに恨んでいるやも知れん。何せロカは国王を辞めた後、どこかへ消えてしまった。まさか異界に行っていたとは思いもよらなかったがの」 そうして少し、目を細めた。 「きゃつが捨てた王座に着いたのは、どうしようもない愚王じゃった。そやつは短い政権下で、大陸半ばまで広がった国土の多くを失った」 その人物は彼女の兄だったそうだ。 「国民に引きずり降ろされた兄に続き、妾が王になった。以来一応は国も落ち着いたが、ロカがいればこんな苦労をせずに済んだかも知れん」
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