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チトセが扉を開くと、台車のようなものにお盆が二つあり、いかにも美味そうな料理が乗っていた。軽い朝食のように見える。
「お、サンキュー」
「?・・・はあ」
言葉が違うのも忘れて礼を言い、盆を受け取る。
「御用の際はいつでも御呼びください。失礼します」
ぺこりと頭を下げ、メイドは扉を閉めた。最後に、チトセに目をやりながら――。
「ほら、飯だ」
そういうと、片手に一つずつ持っていた盆を、部屋に唯一ある小さなテーブルにおく。テーブルは二つの盆で埋まってしまった。
早速食べようとするチトセに「ちょっと」リズがいきなり拳を放つ。
反射的に顔を動かしてよけ、右手にナイフ左手にフォークを持って聞いてみる。構えているわけではない。食べ始める直前なのだ。
「飯前に目の前の顔を殴るのがこっちの挨拶なのか?」
だとしたら食事は全て血の味がするのだろう、かなり嫌な挨拶だ。
「あんた、何勝手に食べようとしてるの?」
リズは抑揚のない口調で尋ねる。その時の彼女の瞳は、冷たい色を浮かべていた。
「腹減ってるんじゃないのか?早く食えよ。それとも食う前に祈る神様でもいるのか?」
首を傾げながら尋ねる仕草は、よく見れば愛嬌がある。だが普段なら考えられない『下民』の行動にリズの頭は冷静ではなかった。
「下民ごときがあたしよりも先に食べ始めるだけでもおこがましいのに・・・貴族のあたしと同じものを同じ高さで食べるなんて、許さない!しかも、使い魔でもあるあんたならなおさら!」
反面、チトセには何故リズが怒っているのかわからない。今彼女が発した言葉から推測は出来るが、理解が出来ないのだ。
貴族の少女は身を翻すと、どこにあったのかと言いたくなるような物体――木剣――を取り出して使い魔に向けた。
「主としてあんたに決闘を申し込めるわ!どちらが上か、ハッキリさせましょう!!」
貴族とはそんなモノを常備しているのかと思いつつも、チトセは疲れたような顔でナイフとフォークを置き立ち上がった。
「・・・やれやれ、面倒な事になったな」
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