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――が、意味のない決闘を受けるべく立ち上がったはいいものの、実はかなり空腹だった。そろそろ腹の虫が獅子もびっくりの咆哮をあげそうな程だ。
どうしようかと湯気を上げる料理を見ながら考えていると、リズは体を震わせながら睨んだ。
「あんた、立ち上がったってことは受ける気なのね?…使い魔の癖に生意気なっ!!」
(やっぱ腹減ったしなあ・・・どうしたもんか)
耳に入る主の話を流しつつ、一秒ごとに冷めていく料理を見つめる。何より温かい料理をわざわざ冷やす事もない。いやそれはむしろシェフに対する侮辱である。
そう割り切り右手をスープ皿に伸ばした。同時にリズの叫びが聞こえた。
「なに無視してんのよっ!」
木剣を持つ手が上げられ――下手すれば頭がカチ割れるような代物が――チトセの頭に振り落ろされた。
――しかし当たった音はしない。それもそのはず、木剣は彼が左手の人差し指と中指の二本で挟み止めていた。しかも主の行動に目もくれず、スープ皿を持ち飲み干した。
リズが驚愕の表情を浮かべる。この使い魔は、彼女に見向きもせず従いもしない。
「な、な、な・・・」
「お、これうめえ。ちょっと待て、食ってからにしよう」
二本の指で木剣を止めたまま淡々と食事を続けるチトセに――ブチッ――出会ってから早々と二度目の勘忍袋の緒が切れた。
もはや言葉もなく、リズはテーブルを蹴り上げる。
ガツッ、と縁に足が当たった。しかしテーブルはびくともしない。どういう事かと見れば、左手がいつの間にか木剣を解放し、その人差し指が今度はテーブルを押さえていた。
「―――ッ!」
まだ食べるのをやめようとしない使い魔をせめて自分に目を向けさせようと、左手でテーブルの上を払う。
――が、それもまた彼の右手により防がれた。
愕然とする。
(なんなのよコイツッ!?)
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