始まりの次

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目を覚ますと、そこにはある種見慣れた天井があった。自室とは違い、薄い色の木肌。清潔感と暖かみを感じる優しい色合いの天井だ。 (ここは――) 「あら、お目覚め?」 「平気?」 聞き慣れた声が二つ。どこか大人びたものと、抑揚に欠けたもの。 首を巡らすと、見慣れているのに思わず懐かしさを感じてしまう顔があった。 「…セリ、ファラー」 名前を呼ぶ声が心なしか弱い。それでも二人は少し安心したように微笑んでくれた。 ここは寮にある医務施設だ。学院を卒業した医者が何人か勤務している。昔は今よりも更に魔力制御が下手だったリズは、よく魔法を使っては倒れていたので、この施設の常連だった。 「気分はどう?」 いつもの揶揄するような口調でもなく、柔らかい表情を浮かべるセリ。一方、ファラーは人差し指をリズの額に当て目を閉じる。 ゆらりと水に漂うような一瞬の感覚の後、彼女は指を離した。 「…体に異常なし。単なる魔力の枯渇が原因。安静で寝てれば明日には回復する」 端的に体の状態を説明する。彼女の得意な水属性魔法の応用だ。回復系に優れた水属性は簡単な魔力操作で体の状態を把握出来る。 「・・・今何時?」 「夕方過ぎよ。朝にあんたの部屋で爆発があって、それ以降あんたは寝っぱなしよ。あ、部屋はちょっとめちゃくちゃになったけど、グレンとキースが片付けてくれたはずよ。幸い洋服箪笥は無事だったから下着とかは見られてないと思うわ」 そう言うセリの笑顔は綺麗で、本当にお姉さんみたいで、やっぱりかけがえのない親友だと思えた。 二人の顔(ファラーは若干無表情だが)を見ていると、突然彼女らがあたふたし始めた。 「ち、ちょっとっ」 「(オロオロ)」 なんだか焦る二人を見て――耳に何か入るのを感じて――初めて自分が泣いている事に気付いた。
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