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一筋二筋流れる雫。ダメだ、今はどうにも心が弱い。僅かの罵倒、僅かの優しさに泣いてしまいそうだ。
「っ・・・大丈夫・・・」
鼻声になりそうなのを我慢して言うと、二人はとりあえず慌てるのを止めてくれた。けれど、心配そうな目を向けて来る。
――ああ、あたしは今そんな心配をかけるほど、ひどい顔をしているのか。
後で二人にはお礼を言おう。でも今はそれより先にすることがある。
「・・・あいつ・・・あたしの使い魔は?」
こんな自体になっても傍にいないなんて、愛想を尽かされているかもしれないけど。それでも話さないといけない。
するとセリは少し笑ってみせた。
「あいつだったら」
そういいながら、親指で一方向を示す。その先には窓。閉められているから風は入って来ない。ただその向こうにある一筋の煙が目に入った。
思わず二人を見ると頷き、ファラーが窓を開いた。途端に鼻孔をくすぐる嗅いだことのある匂いがした。
ファラーが窓の外側に何か呟くと、黒い影がニュッと現れた。深紅の髪が夕日に照らされ、赤銅色に見える。口に何かを加えたまま、時折煙を吐き出す。
彼は窓から部屋に入ってくると「大丈夫か?」ごく自然に聞いてきた。先程まで、一方的だったとはいえ喧嘩をしていた相手に対し、普通に声をかけた。まるで何もなかったかのように。
目を丸くしたリズだったが、なんだか器の違いを見せ付けられた気分になる。けれど、不思議とそんなに悔しくない。
(かなわないなぁ・・・)
小さく笑みを浮かべ、使い魔に告げた。
「あたしの負けよ・・・」
それはきっと、初めてした敗北宣言だったかもしれない。
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