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「あんたが望むなら使い魔の契約を破棄するわ」
その発言には傍にいる二人の方が驚いていた。それもそうだろう。プライドの塊のあたしがこんな事いうなんて、きっと明日はドラゴンが降る。
「あんたもあたしみたいな主は嫌だろうし、あたしの気が変わる前に契約をきりましょう」
少し俯く。自分の口が他人の口に思える。体がちょっとだけ震えている。きっとチトセは肯定するだろう。普段の自分ならきっと許さないが、今の自分なら許してあげられると思う。だから今じゃなきゃダメだ。
両手がいつの間にか布団を固く握っていた。
周りでセリとファラーが静かに見守ってくれている。
チトセは何も言わずにリズに近付く。震える彼女の顔を持ち上げると――つまらなそうな表情で――でこピンをした。
バチンッ!
「ふぐっ!?」
思わず変な悲鳴を上げてしまった。でもそんなこと気にならないほど痛い、かなり痛い、痛すぎる。額を両手で抑えうずくまる。痛すぎて涙が出て来た。
見守っていた二人も――すごい珍しいことにファラーも――口を開いて驚いていた。
「お前、何先走ってんの?俺が飯食ってたら勝手に暴れ始めただけだろ」
「――え?」
涙声で聞き返す。
「だから俺が自分に被害が来ないように防御してただけで、勝手にキレて爆発して気絶したのはお前だよ。大体言っただろ、俺には行く場所がここにはないって。ま、あんたが嫌なら契約破棄して出てくけど」
呆然としてしまった。彼はなおも続ける。
「どっちが上かなんて興味ねえよ。ただお前が主で俺を喚んだんだろ。だったらしっかりしろ」
そんかし自由は保障しろよ、といかにも面倒くさそうに頭をかいた。一息深く吸い込んで紫煙を吐き出し「なってやろうじゃねえか、サーヴァント」小さくだがはっきりと呟いた。
目を見開く。思わず彼の顔を見つめてしまった。
不敵な笑み。彼は導き護る者になってくれると言ったのだ。
――ふと込み上げるような感覚を覚えてうずくまる。周りでどうしたのやら強すぎたかなどと聞こえる。違う、そんなんじゃない。ただ恥ずかしくて、流れる涙を見せたくなかっただけ――。
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